イノセント 26 司つく
側に居た雅哉がつくしの指先を掴み手を握りしめた。
つくしの意識が覚醒していき目を開けた。
朦朧とした意識の中に入って来たのは
「つくしちゃん?」
つくしの手を握りしめ心配げな表情でつくしの顔を覗き込む雅哉の顔だった。
「まさ…やさん?」
「そうだよ。良かった」
夢を見ていたのだと安堵する。
医師が呼ばれ一通りの検査が行われた。結果、何の異常も見当たらなかったが大事をとる為にもう一晩入院する事が決まった。
検査が終わる頃には、いつものつくしに戻り
「先生、お腹空きました」
そう言って立川と雅哉を笑わせた。
司はつくしが無事に目覚めた事を知り安堵すると共に病室に立川と一緒に雅哉が訪れていると聞き__
ギリッギリリ
心が抉られる様に痛む。
「大迫、新和の事はどうなってるんだっ」
苛々としながら声を荒げた。
***
窓の外を眺めれば日溜まりの中、ギブスをした男性の車椅子を押す女性の周りを小ちゃな子供が走り回る姿が目に入ってくる。その姿を眺めながらつくしは
「久しぶりに__あの夢……見ちゃった」
ぽつりと呟いて下唇を噛みしめる。その姿は、必死に何かに耐えているかのように見える。
小ちゃな子供が鳩の群れに突進した瞬間__パタパタパタッと音を立てて鳩が一斉に飛び立った。
飛び立つ鳩を見た瞬間___
「あんたに会いたい__会いたい会いたい__会いたいよぉ」
八年間封印した筈の言葉が、思いが、溢れ出していく。
*/*/*/*/*/*/*
翌日の正午過ぎ__長友がつくしを迎えに来た。
「お手を煩わせてしまってすみませんでした」
つくしが謝れば
「牧野さんが悪いわけではありません。それに__私は、仕事で来させて頂いてますので、どうぞ気になさらないで下さいね」
司の元婚約者は、直ぐさま取り押さえそのまま精神科に入院させたと長友から説明される。この事が公になると道明寺HDにとっても外聞が悪いので刑事事件にはしない旨が告げられたあと
「ご親族の方が今後このような事が起きないようにしっかりと見張りをつけるとおっしゃっておりますので__これ以上はご心配にならなくとも大丈夫かと思います」
「あっ、はい……それは全てお任せ致します___あの、長友さん」
「なんでしょうか?」
「__今回の件とは別件なのですが…..
この先、もし私が道明寺HDの出向をお断りさせて頂くとしたら」
全てを言い終わらぬ内に
「先達て説明させて頂いたかと思いますが余程のご事情でない限り......
立川に契約違約金の請求がいく形になるかと思います」
「契約__違約金ですか?」
「えぇ、そのような形で判を押して頂いてますから__多分、立川のような規模ですと倒産の形に追い込まれてるかと思いますよ」
「倒産ですか?」
「えぇ、間違いなく__まぁ、倒産という形だけで済めば立川先生ほどの経歴を持っていられれば逆に何の問題もないのですが__道明寺HDを敵に回したとなれば二度と立川先生には仕事は回ってこないでしょうね」
「二度とですか?」
「えぇ。まぁ、立川先生の所だけじゃないですけどね。
......ところで牧野さん、お勤めするのに何か不都合でもおありですか?」
「あっ、いえ__ただ......あまりにも建築の世界とはかけ離れた仕事でしたので」
「あぁ、確かにいま牧野さんがされてる事は立川の規模でしたら必要の無いばかりですものね。ただ__」
「ただ?」
長友はニッコリと微笑み
「プロジェクトが全て終わった五年後の立川には必要になってくるのではないでしょうかね?
......失礼ですが牧野さんは、お仕事を20代の内に終えられる予定ですか?」
「いえ」
「でしたら__長い期間で物事を考える事をお勧めしますわ
それに、杉下さんから伺いましたけど牧野さんに秘書の経験がないと思えないくらい呑み込みが良いとか」
長友から世辞を言われ__
素直にも喜べず曖昧につくしは笑う。
ただ解った事は__いまのプロジェクトが終わる迄道明寺HDで仕事を続けなければいけないと言う事だった。
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