イノセント 28 司つく
メープルの絢爛さと重厚さに未だにつくしは、圧倒される。立川と共に幾つもの国に行き様々な一流ホテルに行った筈なのに__メープル TOKYOはつくしを17才の少女にもどしてしまうのだ。
幾度となく足を踏み入れたインペリアルスイート__つくしは息を整え大迫の後ろに位置した。
呼び鈴を押し幾つかのドアを開ければガウン姿の司がバスルームから出て来る。
洗い立ての髪は、いつものウェーブヘアーではなく真っ直ぐで___思わずつくしは昔を思い出しくすっと小さく微笑んでいた。
いつの間にか用意されたのか美味しそうに湯気を立てている朝食を三人で食べる。
つくしの「頂きます」以外は無言の食卓だが__つくしの意識は既に食事に集中して司の事も大迫の事も気にしていない。どんな状況下でも食事は楽しむもの。しかも美味しい食事となれば尚更だと意識を変えたのだ。
司は、美味しそうに食事をするつくしを盗み見ながら微かな笑みを零す。つくしが側にいれば普段コーヒーだけで済ませてしまう食事も自ずと箸が進むのだ。
つくしを手元に置きたいと欲する気持ちが愛だとこの時気が付けば良かったのだ。
なのに__司は気が付かない。
つくしが過ごす日常は司一色に塗り替えられていく。
つくしの身体は本人の預かり知らぬ所で淫美に花を咲かせ続ける。
色香がつくしを纏う。
白い肌は艶やかに輝きを増せば、狂おしい程に司はつくしに囚われる。
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つくしは、全ての仕度を整えた後、修理から戻ってきた時計を腕に嵌め部屋を出る。
いつの間にかすり替わった日常の中、司の元に向い朝食をとっている。いつもの様に司がつくしを盗み見る。つくしの腕にキラリッと輝く時計を見つけた瞬間__
ギリリッと嫉妬の炎を燃やした。
ガッシャン
グラスが大理石の床に落ち激しく割れる。
落ちたグラスを拾おうとしたつくしの腕を司は掴み上げる。つくしが司の顔を見上げれば
「__そんなことは、お前のする仕事じゃない」
司に吐き捨てられるように言われ__つくしは一瞬眉を顰めた後
「申し訳ございません」
つくしは、掴まれた手を振り払うかのように手を上に上げた。拒絶されるかのように振り払われた司の手は宙に舞う。
ギリッギリリと司の心が音を上げ
堕ちていく
堕ちていく
暗闇の中に__
堕ちていく
ギリギリと痛む心は、己がもつ心を曇らせて……つくしを我がものにしたいその一点に集中されていくのだ。
つくしを手に入れ花を散らせたい。
「……せてやる…..お前を」
「えっ?」
司はつくしの顔を一瞥して部屋を出て行く。
つくしは大迫と共に慌てて司の後を追った。
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「ご用意が全て整いました」
大迫の言葉に美しく微笑みながら、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「そうか......では今晩牧野を連れて来い」
全ての用意が整った日__
それは、つくしの大事にしてきたものを全て奪い去る日だった。
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