イノセント 32 司つく
女など抱き潰してしまえば……いつもと同じ様に飽く筈だと思っていた。
それなのに……枯れる事のない泉のように抱けば抱く程に劣情が滾々と沸き出て来る。
つくしを抱いた後に初めて感じた充足感と渇望感。
相反する気持ちが司の心を苛立たせる。
幾度もイカされ続けたつくしの身体は、夢も見ずに泥のように眠り続ける。
陽射しの中、目覚めれば全身を清められシルクのナイティを着せられていた。ふらつく足でベッドを抜け出してシャワーを浴びる。
大きな鏡に映るつくしは、己の姿を嫌悪したい程に美しい牝の顔をしていた。
身体に纏わりつく男の匂いを消すように勢い良くシャワーを浴びる。
つくしの悲しみを交えたお湯が排水溝に流れていく。夢だと思いたい__なのにズキズキと痛む下半身が夢でない事を語っている。
知らぬ間に用意されていた服を身に纏い身仕度を整えバスルームを出れば真正面に大迫が立っていて挨拶をされる
「牧野さん、おはようございます」
驚きで肩が揺れ次の瞬間__
「緊急避妊薬ですのでお飲み下さい」
大迫は表情も変えずにアフターピルを手渡して来る。
「フ…アハハ……アハハハッ…アッハハハ」
狂ったようにつくしの口から笑いが溢れ出す。
どれくらいの時間笑ったのだろう?
それは、とてつもなく長い時間だったのかそれとも一瞬の間だったのか......
正気を取り戻したつくしは、大迫から手渡されたアフターピルを口に含んだ。
つくしがアフターピルを口に含むのを確認した後
「それと……もう充分にお解りだと思いますが訴えられても無意味だと思いますので……無意味な事はお考えになられない様になさって下さい」
「……同意の上だったて事ですよね。承知しております__これで失礼させて頂いても宜しいでしょうか?」
「えぇ、外に車が待っておりますので。それと。月曜の朝はお部屋の方にお迎えに参りますので」
「それには拒否権は存在するのですか?」
「拒否権ですか?」
何をおかしな事を言うのだとばかりに怪訝な顔をされる。
「どうせ、ないんですよね……」
つくしは大迫を真っ直ぐに見つめ返してから
「仕事だけは、きちんとやらせて下さる様にお願い致します」
お辞儀を一つし、真っ直ぐに背筋を伸ばし部屋を出て行く。
それが彼女のプライド。
自分の部屋に戻った瞬間__つくしは声を出して泣いた
「ぅっく…ひっ、ヒック……ぅぅっ……ヒック」
涙を拭きもせず__泣いて泣いて泣いた。
身体中の水分が涙となって出て行ってしまって干涸びて死ねたらいいのにとつくしは、考える。
「ふっ__バカみたい」
スマホがカタカタと揺れている。ディスプレイには雅哉の名前が表示されている。司に抱かれる前に雅哉から今日会って両親に紹介したいと連絡を受けていた。時間を見れば約束の時間をとうに過ぎている。
つくしは、首を振りスマホを投げつけた。雅哉の電話に出れるわけがない。それに……雅哉をこれ以上巻き込むワケにはいかない。一度切れ、もう一度カタカタと揺れる。目を瞑り耳を塞ぎ__つくしは決意する。【悪者になろう】そう決意する。
雅哉を立川を闇に引きずり込むわけにはいかないから。
目を瞑り耳を塞ぎどれくらいの時間が経ったのだろう__
つくしは、のそのそと立ち上がり浴室にお湯を張る。
「雅哉さん__ごめんね。サヨウナラ」
そう呟きながら
ポチャンッ
スマホを沈めた。
部屋のベルが鳴り__幾つもの大きな箱と真っ赤な薔薇の花束と共に温かな湯気を立たせた食事が届けられる。箱の中には、真っ白いスーツと下着が入っていた。
月曜の朝__真っ白なスーツを身に纏い、腕にセルペンティの腕時計を巻き付ける。
程なくして大迫が現れ、つくしはエレベーターに乗せられた。
エントランスに向うと思っていたエレベーターは、上昇を始めペントハウスに着いた。
そこは、燦々と陽が差す楽園のような場所だった。
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