No.033 押し売り 類つく
何の唄だろう?
まだ覚めきらない頭の片隅でぼんやりと考える。
ぼんやり考えながら凄く凄く幸せな気分に包まれる。
「フッフッフン♪ フッフッフン♪」
ハミングの声が大きくなってくる。パチリッと目を覚ませば、
「おはよう」
満面の笑顔で俺の顔を覗き込んでる顔がある。
あんたのハミングが嬉しくって顔がにやけそうだから、たった今目が覚めた振りをして
「おはよう」
と言い返す。
牧野の指先が
ツンッと俺の鼻先をタッチして
「うわっ、鼻高いぃーー」
そう口にしてから自分の鼻に触れ
「うむーーっ」
なんて眉間に皺寄せながら手を組み出した。
一連の短い動作の中なのにクルクルと色んな顔を見せる牧野に、なんか見惚れた。
「うんっ。どうしたの?」
「あっ、いや。あんた相変わらず凄いなって思って」
「ふっん?凄いって何が?」
「あっ嫌、色々___って、朝早くからどうしたの?」
「どうしたの前に色々って何?色々って」
口をへの字に曲げながら__ジロリと俺を一睨みする。
一睨みする顔が可笑しくて笑えば
「フンッ もうホント笑い上戸なんだから!」
なんてプリプリ怒ってる。怒ってばっかりじゃ前に進まないから
「ごめん、ごめん……で?」
そう聞けば
「押し売りにきちゃった」
「押し売り?」
ブンブンブンと縦に首を振り……俺の手を引っ張って食堂に連れて行く。俺の椅子を引き、腰をかける様に促してくる。
ホカホカと湯気の出たピンクのスープが俺の前に出される。
「これは?」
俺の質問に答えないで、スッと右手を出して
「温かい内に召し上がれ」
ニッコリと笑う。
「いただきます」
両手を合わせて頂けば___滋味深い味がする。
ピンク色のスープはスゥーッと気持ちの中に染み渡り気持ちを和ませていく。
「……美味しい」
と呟けば……満足げな笑いを浮かべながら俺の前に座る。
「良かった__紅芯大根頂いてポタージュ作ったら思いの外に上手に出来ちゃって真っ先に食べて貰いたいって思って押し掛けちゃった。えへへ ザ・押し売り」
思いがけない言葉が嬉しくて嬉しくてたまらない。
あんたにとっては何気ない事が俺をこの上なく幸せにさせるって知ってる?
「本当に美味しいよ」
「えヘッ 良かった」
嬉しそうにニッコリと微笑む。
ねぇ牧野、あんたのお陰でこの世の中に好きなものが
一つ、また一つと増えていくよ。
ピンクのポタージュは、身体の中を温める。身体も気持ちも温める。
だからかな
ずっと言いたかった一言を口にする。
「ねぇ、牧野、俺も押し売りしてもいいかな?」
「んっ?何?なに?」
「あのさぁ……俺」
「えっ? 俺って何?どう言う事?」
キョトンとしながら聞き返して来るから
「うん。結婚して下さいって事」
そう答えたら......
牧野の目が真ん丸に見開かれ驚いている。
あぁ、やっぱりまだ早かった?
付き合ったばかりだって言うのに__調子に乗り過ぎたかな。
なんて思った次の瞬間
目の前の牧野の顔が泣き笑いになって
「返せって言っても返さないよ」
なんて可愛い事を言って来る。
多分俺、人生最高にニヤケテ締まりのない顔をしてると思う。
なのに、鼻の奥がツーンとなって涙が零れそうになる。
でも、こう言うのを幸せって言うんだよね。
あんたに出会って俺は知った。人が涙するのは、悔しい時、哀しい時だけじゃないんだって。
幸せでたたまらない時も涙するんだって。
「末永く宜しくお願いします」
頭を一つ下げてから、テーブルごしに口づけを交わした。
寒い冬__心も身体も温まろう


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