反則負け、反則勝ち 01 byたろさ様
明日締切の課題をようやく片付けてそう聞くと、ちゃぶ台に頬杖をついてくすくす笑いながらテレビを見ていた類がこっちを向いた。
「俺、牧野ごはんが食べたいな。」
ニコッとしながらそう答える澄んだ眼差しは何だか妙にキラキラと輝いていて。
瞬間、どくんと胸が高鳴る。
「いいけど、あたしの作るものなんてたかがしれてるのに。」
少しぶっきらぼうに返したのは、なんだかとっても照れくさかったせい。
なにか出せばいつもちゃんと食べてはくれていたけれど。
元来食が細くて好きなモノにしか反応しない類が、あたしの作るものを自分から「食べたい」って言ってくれるなんて。
それだけでにやけるほど嬉しくなってくる。
「そんなことない。牧野のごはんがいい。ね、食べさせて。」
そのうえ重ねてそう言われて。
お願いのポーズまでとられると、思わずうわぁとのけぞりそうになる。
……っていうか、のけぞった。
もうっ、その声。その距離。その仕草。その笑顔。
ホント、反則。
「どうしたの?牧野。」
だ、だからそんなにきれいな顔を至近距離まで近づけてこないでってば!
のけぞった勢いでカーペットの上にがくんと両手をついたあたしに、ぐいぐい身を乗り出して聞いてくる類。
悔しいけど、あっという間に頬がほてって、心拍が上がって。
耳の奥でばっくんばっくん心音まで騒ぎだした。
「あれ?勉強してたら知恵熱でも出た?顔、赤い。」
知恵熱なんかじゃない。
そんなの自分が一番よくわかってる。
それなのに、くすくす笑う息が頬を掠めるほど顔を近づけてこられて。
ますます頭が熱くなって。
そ、そ、それこそ心臓が飛び出しちゃうよ。
……っていうか、類。
ソレ、わかっててやってない?
「わ、わかった。わかったから!でもあるモノで適当に作るから期待しないでよっ。」
「やった!」
にこっと手を叩く天使の顔から思いっきり顔をそむけ、あたしは急いでキッチンへと向かう。
ふぅと息を吐いて、シンクの脇に手をついて。
乱れた呼吸を必死に整えていたらもう、テレビの音に合わせて背後から聞こえてくる類の笑い声。
(……ったく、もうっ!あたしで遊ぶのが好きなんだからっ。)
はあああぁと大きなため息が出た。
あたしと類は仲がいい。
高校生だったあのころよりも、もっとずっと仲がいい。
お互い大学生になって、あたしが一人暮らしをはじめてからは。
時間があうと、こうして我が家で二人のんびり過ごすことも多くなった。
――――でも、つきあってるわけじゃない。
同じ部屋にいっしょにいても、好き勝手に過ごすことだって多いし。
気が付けば類がそこいらでごろりと転がって寝ちゃうことすらある。
そう、とどのつまりは非常階段が我が家に変わっただけのこと。
「本当におふたりはつきあってないんですか?」って桜子からは何度も追及された。
「つくしはそのままでいいの?」って優紀は少し心配そうに聞いてくる。
「もういいじゃん。つきあっちゃえ!類くんも待ってるってばっ!」って滋さんはすぐ背中を押したがる。
そのたびに首を大きく横に振った。
ちぎれるくらい振りまくった。
「違うよ、違う。そんなんじゃないってば!類とは友達!」
バカみたいにそう繰り返して。
でも………。
ぜったい誰にも言えないけど。
聞かれてもぜったい認めないけど。
自分ではもうちゃんと気づいてる。
――――あたしは花沢類がスキ。
でも認めるわけにはいかない。
認められるわけがない。
だって友達だもん。親友だもん。心の一部だもん。
なにより、元カレの大親友っていうややこしい相手なんだもん。
昔はたしかにスキって言ってくれた。
でもそんなのもう何年も前のこと。
きっと類本人ですら忘れてる、それくらい大昔。
たとえ覚えていても、そんな気持ちはたぶんすっかり風化しているだろう。
今はお互いただの親友。
でも本当に仲のいい、いっしょにいることが何より心地いい“心の友“。
或る意味、最高のカンケイ、だよね。
今さらレンアイなんか持ち込んだら、きっと類を困らせるだけ。
だから………
―――この気持ちは、あたしだけの秘密。
キャベツを刻んで、冷凍していた豚バラを取り出して。
ゴボウとニンジンは千切りに。
ホウレンソウを湯がいて、乾燥わかめを水で戻す。
ささっとつくった豚の生姜焼ききんぴら・つくし風。
小鉢は、ホウレンソウの胡麻和えと冷奴。
わかめのお味噌汁までついていて。
うん、我が家のランチにしてはちょっと…いやかなり贅沢だけど、まだまだ育ちざかり?の男子に食べさせるんだもの。
よしとしよう。
火を消して。
換気扇を止めて。
ふうとひと息つくと。
また聞こえてきた類の笑い声。
(こんな風に類の笑い声を聞くようになるなんて、あの頃は思ってもみなかったな。)
なんてふと、出会ったころを思い出す。
あの頃のあたしは類に会うだけでドキドキして。
声をかけてもらっただけで、何日も何日も幸せでいっぱいになってた。
そんなあたしの初恋の王子様。
でも今もまた。
同じようにドキドキする。
笑われたって、からかわれたって、ふざけておもちゃにされたって。
やっぱり彼は私の王子様。
(まあ、その王子様がまさかお笑い番組を見ながら笑い転げるような人だとは思ってもみなかったけど。)
くすっと笑い、振り返る。
「る~い~、できたよっ、そっちに持っていってくれる?」
lala たろさ様より 強奪してしまいました。02は明日12時更新♪


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事