反則負け、反則勝ち 03 byたろさ様
本当はね。
本当の本当は、夫婦箸なんだ。
食器棚の引き出しの奥にこっそり隠してあるけれど。
おそろいの箸があるんだよ。
だから余計に、「それ、類のだよ」って言うときはドキドキだった。
震えないよう必死に何でもないふりをして、声を絞り出して。
ほんのちょっとでいいから、喜んでくれるといいなって思ってた。
でもホントは少し怖くもあったんだ。
「……え?ナニコレ」なんて、引かれたらどうしよう。
戸惑われて、困られて、眉尻が下がって、眉間に皺が寄って……そんな顔を見せられたらどうしよう。
大丈夫って信じていても、正直少しおびえてた。
まさか、って言われてどきっとした。
俺の? って聞かれてびくっとした。
だけど類は、あたしの目の前でキレイな瞳をひと回り大きく見開いて。
それからふわりと表情を緩めた。
ぱっと口もとを手で覆ったのは、少し照れたときの類の癖。
ウソみたいに目元を赤くして。
「ありがと。なんかすごく嬉しい。」
って、ほんとにほんとに嬉しそうに微笑んでくれた。
ああ、よかった、って息をつく。
喜んでもらえた、って噛みしめる。
そしたらぽっと、心に灯りが点った。
「ねえ、牧野?」
あ、ホントに使ってくれてる…なんてキレイに動く箸を眺めながらぼんやりおかずをつまんでいたら。
急にその箸が目の前でちらちらしはじめて、思わずびくっと肩が上がった。
「あ、ごめん。考えごとしてた。」
そんなあたしにくすっと笑いかける類。
「このおかず、すごく美味しい。」
「ほんと?よかった。つくしオリジナルの生姜焼きキンピラだよ。」
「へえ……。ねえ、まだおかわりある?」
おかわり?
そのまま明日のお弁当にもって思ったから、まだ少しあるけど。
「ある…けど?」
「やった!」
小さく言ってにっこり笑って、類が茶碗をこっちに差し出してくる。
あの類が!?
いつも最上級の美味しいものしか食べていないくせに。
そんな美味しいものですら、鳥がつつくくらいの量しか食べないくせに。
それなのに、似つかわしくないちゃぶ台を前に。
似つかわしくない茶碗を差し出して。
にっこり笑って、ほくほくって顔をして。
「たっぷりある?」
なんて。
ホントに?
ホントのホントに類が言ったの?
それは美味しいって言われる以上に嬉しい、何よりの褒め言葉。
それだけでもう、あたしのテンションはマックス越え!
「うんっ。」
なんて二つ返事で受け取っちゃ………おうとした茶碗を離さずじっと眺める類。
「どうしたの?」
「あのさ。」
茶碗からあたしに、類の視線がふわりと移る。
「あとでお茶碗、買いにいこ?」
「お茶碗?」
「そ。もう一回り大きいヤツ。牧野とお揃いで。」
「うん、いいけ………ふええええ?」
何気なく言われてなんとなく返事をしようとして。
最後の言葉がちゃんと頭の奥まで届いた瞬間、冗談抜きで心臓が止まりそうになった。
「ダメ?」
「ダメっていうか。お揃いって。それ………。」
にこにこ笑う類の顔。
ああ、また遊ばれてるんだ。
きっと真っ赤になったあたしを見て。
タコみたいとかなんとかいって。
冗談だよ?ってクスクス笑うんだ。
一瞬勘違いした自分を恥ずかしく思いながら息を吸い込み、いつものとおり抗議の声を上げようとした瞬間。
「約束。」
小指をぽんと差し出された。
――――だから、その笑顔は………反則だってば………
差し出された小指にいつの間にか絡めてしまっていた自分の小指を眺めながら。
あたしはそっと唇をかみしめた。
lala たろさ様より 強奪してしまいました。04は明日12時更新♪


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