反則負け、反則勝ち 04 byたろさ様
「うん、いいけ………ふええええ?」
いったい身体のどこから出てくるのかわからないような不思議な叫び声に、思わず吹き出しそうになったけど。
そんなことしたらぜんぶぶち壊しになる気がして、黙ってじっとこらえた。
「ダメ?」
「ダメっていうか。お揃いって。それ………。」
とりあえずすぐにダメって言われなかったことにほっとする。
……と、目の前でみるみる朱に染まる牧野の頬を見て心のどこかがぴょんっと跳ねた。
もぎたてのトマトみたいに真っ赤になった牧野の、その赤さが俺の求める理由からならいいのにって。
切に切に。
そう願うけれど。
物事、そう簡単に上手くいったりはしないってコトはよくわかってる。
きっとこれも「からかうなんてひどい」って言われてオシマイなんだろうな。
だからせめて、抗議の声がその可愛らしい唇から繰り出される前に。
「約束。」
そう言って指を差出し、牧野の言葉を封じて。
俺は素知らぬ顔で牧野スペシャルの生姜焼きキンピラに手を伸ばした。
この世の中できっと俺と牧野しか食べたことのないこの味を。
味わえる最上の幸せは、俺だけのもの。
ねえ、牧野。
これからもずっとさ。
この味を味わわせてよ
牧野の味を、味わわせてよ。
ついでに、茶碗も箸もなにもかも。
これからずっと一緒に買いにいこ。
―――二人、肩を並べて。
そんなことを願いながら。
すぐ隣で、いつものように美味しそうにご飯を食べる牧野を眺める。
ただの“親友”かもしれないけれど。
それでも手を伸ばせば届く距離にいてくれる彼女を眺める。
どこよりも居心地がいい牧野の部屋。
誰といるより心地いい牧野の隣。
何よりも愛しい牧野の笑顔。
司と牧野が別れてもう何年にもなる。
無理やり引き裂かれた恋は、牧野の心に大きな傷を負わせて。
俺はなんとかしてその傷をこの手で癒したいと願ったけれど。
結局できたのは、ただ傍にいることだけだった。
それでもいい。
どんな形でもいい。
牧野の傍にいられれば。
牧野の笑顔が見られれば。
こわばった顔つきで痛々しい笑顔しか浮かべられずにいた牧野が、ようやく以前のような花の笑顔を浮かべてくれたとき。
俺は心からそう思った。
ホントにそう思ったんだ。
でも実際、こうしていつも傍にいて。
隣にいるのも、笑顔を見るのも、ときにはその頬に触れるのも当たり前のようになってくると。
だんだん欲が出てきてしまう。
ダメだダメだと思いながら、もっともっとと願ってしまう。
これって男の性、ってヤツ?
いやちがう。そうじゃない。
そう思うのは、これが俺にとって一生に一度の恋だから。
だから決めた。
俺がそうだったように。
牧野の当り前も変えちゃおうって。
ずっと傍にいて。
ずっと笑顔を向けて。
ずっと俺を感じさせる。
俺といるのが牧野にとって当たり前になって。
いなくなったらとんでもない喪失感に襲われるように仕向けるんだ。
そうやって牧野の心に浸食して。
深い深いところまで食い込んで。
一部が全部になるまで離れない。
それからもう一度。
好きだって言う。
愛してるって言う。
絶対に離さないって誓う。
―――牧野を俺だけのモノにする。
もう今度は誰にも遠慮しない。
どんなライバルが現れたって、形になる前にぜんぶ蹴散らしてやる。
姑息な手段を使っても。
ああ、でもそれはもちろん牧野に知られないようにこっそりと、だけど。
外堀を埋めて。
内堀も埋め尽くして。
どこにも行けないように取り囲んで。
牧野をぜんぶ俺のモノに。
そう、これは俺の――― たぶん一生一度の ―――全力勝負。
そう思って行動して、もう1年半が過ぎた。
こんなにずっと一緒にいられるのも、たぶん俺が大学生の間だけ。
だとすれば、タイムリミットはあと約半年。
ここまで追い込まれても、思う結果を出せないなんて。
まったくもって不本意ではあるけれど。
相手が牧野だから仕方ない。
………なんて、呑気に構えている時間はもうおしまいだ。
俺はこくりと唾を飲む。
拳を握る。
最上の笑みを浮かべる。
「あのさ、牧野。」
* * *
最終決戦のゴングが今鳴った。
いや、ホントはもっとずっと前に鳴っていたのかもしれない。
反則技まで繰り出され。
攻め手が勝つか。
守り手が勝つか。
いや、どっちが勝ってもどっちが負けても。
―――――たぶんそれは幸せな結末。
Fin
どっちが勝つ? どっちが負ける?
きっとどっちも勝ちのwin win


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥ lala たろさ様より頂強奪しちゃいました♪
たろささん有り難うございます♪♪
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