No.037 政略結婚 司つく
「つくしさん、あなたも大見得切ったわりには大した事はないのね?お父様の会社がどうなっても宜しいってことかしら?」
プッツーンと切れる音がして
ハァッーーー?
ふんっ、やってやろうじゃんなんて思って
「お受けさせて頂きます」
そう言った瞬間、サッと書類が目の前に出された。
「中身は、先程説明した通りよ」
そんな風に追い討ちを掛けられて__サインしていた。
魔女は、ニッコリと微笑んで
「快諾して頂けて良かったわ。後は楽しみにさせて頂くわ」
あっ、しまった__と思った時には、時既に遅しで魔女は、違う仕事に取りかかっていた。
「あ、あ、あ、あの?」
ともう一度声をかけても、一瞥もしやしない……恐るべし魔女。
はぁっーーー 頭を抱えてももう遅い……
ワカッチャイルケド
はぁっーーー 頭を抱えた。
*-*-*-*-*-*-*
「牧野つくしと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
あたしの前に座っている無愛想な男に丁寧に頭を下げる。なのに、なのにだ、目の前のこの男__チラリッともあたしを見やしない。
コイツバカか? うん。バカだな。
そんな言葉で自分を納得させる。いやいや、納得させてる場合じゃなかった。
だって、このバカ男があたしの許嫁なのだから。
「司さん、ちょっと宜しいでしょうか?」
「……人の…呼ぶな」
「はっ?」
聞き取りにくい声でもぞもぞ言われて思わず聞き返してた
「はっじゃねぇよ。気安く人の名を呼ぶなって言ってんだ」
呼ぶなって__だったらその前に返事しろ!
喉元まで出かかった言葉を慌てて引っ込めて
「それは大変失礼致しました」
「フンッ」
フンッじゃないだろう。このチョコロネ!
なんて思ったけど……容姿の欠点はあげつらえちゃいけません。
これ牧野家の家訓だ。
くぅーーーっとは、思うものの言葉を呑み込んだ。
なのに、なのにだ
「ったく、あの女もこんな貧相な女寄越しやがって」
あの女はわかるけどだ。貧相?こんな女?聞き捨てならねぇ。仮にも、仮にもあんたの許嫁だっちゅーの。
「……バカかっ」
ついつい出ちゃった心の本音。
三白眼の目でジロリとあたしをひと睨みして。
「お前、バカって言ったか?バカって?」
ふへぇっと思ったけど負けちゃイケナイ。己を鼓舞して言い返す。
「えぇ バカって言いましたけどソレが何か?」
胸を張って言い返す。
「なぁ、俺、仮にもお前の許嫁ってやつなんだろうよ?それにバカってどう言う事だ!」
「どう言う事もこう言う事も人が挨拶してるのにガン無視する方がどう言う事だ!なので、バカと呼ばせて頂きましたがソレがどうか致しましたか?」
フーンだ。フーーーーンだ。アッカンベーだ。
とは言え、あたしはこれから一年近く…いや下手したら一生この男と共に寝食過ごさなきゃいけないのだ。
って、あたし__この時代に自ら進んで〝人身御供〟になっちゃったってコト?
はぁっーー 今更ながらに凹むわぁーー
なんて思うものの牧野物産で働いてくれてる社員達の顔がポンッ、ポンッと浮かんで来る。 しまいには爺やや婆やの顔迄浮かんできて……頑張んなくちゃと気合いを入れ直した。
そう、あたし〝牧野つくし 25才〟は、父の経営する牧野物産の倒産の危機を救うため__魔女と契約を結んだんだ。
一年後__あたしはコイツの嫁になる。それを条件に牧野を助けてもらった。
たった一つの逃げ道はコイツが相思相愛になれる相手を見つける事だけだ。
この横柄男が相思相愛?
ぜ、ぜ、絶対にムリだ。だって、だってこの女をバカにした態度……しかもこの男、極度の女嫌いらしい。
プルプルッと首を振る。イケナイ、イケナイ弱気じゃイケナイ。
先ずは、この男の根性叩き直してやる。
題して、つくしのいい男講座だ。
とりあえず、とりあえず__この男の性根を入れ替える為には、コイツにギャッフンと言わせなきゃだ。
って、喧嘩してる場合じゃないか。なのになのに〝バカか〟なんて暴言吐いちゃった。グゥエッ どうしようなんて思った瞬間、聞こえてきたのは、ガハガハ笑う笑い声
「牧野……お前の顔、百面相みたいだな。ぶっ、あははっ」
「……道明寺こそ笑い袋みたい」
そう言って……お腹を抱えて目の前の男は笑った。
____笑った顔は、流石天下の二枚目中々イケテタ。
それが切っ掛けで少しずつ少しずつあたしと道明寺は、仲良くなった。寝食共に__正しく寝食共にしている。住まいは勿論道明寺邸に居候だし職場は、道明寺HDしかも道明寺の秘書なるものをやっている。朝から晩迄一緒だ。
相変わらず偉そうで、相変わらず横柄な俺様野郎な所はあるけれど、割合気があったりする。まぁ、なんだ?こう言うのを気心しれてる関係とか言うのだろうか?一緒にいると楽ちんだったりする。
人間性はさておき……仕事だけは100点満点あげたいくらい良く出来る。
一ヶ月が過ぎる頃には、一緒にいるのが当たり前になった。
「おいっ、牧野、なんかツマミ作れ」
今日も横柄に元気だ。そう、休みの前の晩は、道明寺の部屋で二人でお酒を酌み交わすんだ。気が付けば一緒のベッドで朝迄二人で眠ってる。
でも……あたしと道明寺の間には、ドキドキキュンキュンするような恋はない。
半年が過ぎた頃
胸が苦しくなって___あたしは気が付いた。
あぁ、やっぱりこの結婚は無理だと。
だって__道明寺は、あたしにドキドキしてない。
だって__道明寺は、あたしにキュンキュンしてない。
「どうした?腹空いたか?」
「バカっ。なんでも腹空いたせいにすんな」
「じゃぁ、どうした?」
「…………」
「なんか意地悪されたか?それとも何か悩みでもあんのか?」
目の前の男がバカみたいに優しく聞いて来る。
その姿を見ていたら涙がツゥッーーーと流れ出た。
「どうした。マジどうした?なっ、な、泣くな。なんでも言う事を聞いてやっから泣くな。なっ」
あたしを好きになって__喉元まで出かかった言葉。
ゴクリッとあたしは呑み込んで
「道明寺__あたしとは婚約解消して欲しいって言って」
「ダメだ」
「なんでも言う事聞くって言ったじゃん。嘘つき」
「なんと言われようともそれはダメだ」
「なんで?なんで?あたしとなら気楽だから?一緒に寝てても手も出さない癖に」
「それは、ケジメだ」
「えっ?」
「鈍感女」
「鈍感女って__鈍感バカ男」
「バカは無いだろう」
「バカだからバカって言っただけだ」
お決まりの喧嘩になりそうな所で道明寺のキスが降ってきて
「好きだ。好きだ。大好きだ。結婚してくれ」
結婚を申し込まれ。コクンと頷いた。
実は……道明寺とあたしの結婚は、悲願の縁組みだったらしい。
でも、女嫌いの道明寺と男嫌いのあたし。どう考えても上手くいくわけなどないと双方の両親は考えたんだ。
だからあたしに、牧野物産が倒産の憂き目を見てるからこの話を死ぬ気で受け入れろと迫ったらしい。
一年間、二人の間に愛が芽生えなかったら仕方ないその時は潔く諦めようと決めていたらしい。
あははっ、すっかりと騙されたって奴だ。
でも__騙されてよかった
だって__あたし達は只今、かなりのバカップル中だ。
バカップル万歳♪


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