No.039 あいつとアイツ 総つく
俺の蹴った空き缶がカラカラと音を立てながら転がって行く。
喧噪が大通りから聞こえくる。たった一本路地裏に入っただけなのにここは、静けさに満ちていてまるで暗闇を漂っているような気分になる。
暗闇に自分の吐いた白い息が広がっていく。
かじかむ手に息を吐きかけながら鼻の頭を真っ赤にしてたあいつの顔を唐突に思い出す。
「フッ」
思わず笑いが零れた。
凍えそうに寒い暗闇の中でさえあいつの顔を思い出すと心が優しさに満たされ温かくなる。
なんであいつの顔なんて思いだすのだろう? 鈍感で、貧乏で、おまけに胸も色気もない女の事なんて。
司が類があきらがあいつに恋をするのを笑って見てた。少しだけ滑稽に感じながら。
だから、あいつは司と別れた後も遠慮なく俺に何でも頼んできたし相談してきた。
「あのさぁ、西門さんの伝手でいい仕事ってない?」
「お前の成績ならどこでもOKだろうよ?」
そう言葉を返せば
「うーーん。どこでもOKみたいなどこでもOKじゃないみたいなって感じかなぁーって」
話しを聞けばあいつ等三人が関係していない仕事を見つけるのが難しいんだと言い出した。
「うーん、じゃぁよ」
西門と縁の深い清水目文化財団の理事を務める茅子夫人を紹介した。茅子夫人の元でテキパキと働いている。
そんなこんなの縁で西門の茶道会館にもよく顔を出す。ついでに飲みに行く。そんなこんなが無くても暇がありゃ飲みに行く。
お互いに愚痴を言い合い、美味いもんを二人で食べる。一緒にいるのが当たり前になっている。
自分に関することには鈍感だけど人の気持ちには敏感だ。
貧乏だが誰にも迷惑なんてかけちゃいない。
胸はないけど着物は似合う。
色気はねぇけどたまにハッとさせられる。
絶対に惚れねぇ自信があったのになぁー
惚れちまった。
カランカラン コロコロコロ
暗闇の中空き缶が転がっていく。
*-*-*-*-*-*
カラカラ コロンッ カラカラ コロンッ
どこからか空き缶を転がる音がする。
カラカラカラ コロンッ カランカラン コロコロコロコロ
暗闇から音がする。
手袋を取ってバッグに仕舞う。
かじかむ手を擦りながら息を吹きかける。
「ふぅっー」
暗闇に白い息が漂う。
もうじきあいつがやってくる。
「ヨッ」っていいながら手を挙げてあたしの前に現れる。
あいつを待つこの時間があたしは好きだ。
この時間だけ乙女で居られるから。好きな人を待つ。幸せな時間だ。
「ふぅっー」
かじかむ手に息を吹く。
なんであいつだったんだろう?
一番却下の対象なのに。
時折見せる真摯な顔に惹かれ
時折見せる淋しい心を抱き締めてあげたいと思ってしまった。
気が付けば恋をして気が付けば愛してた。
凍てつく様な寒い夜なのにアイツを思えば心がホンワカ温かくなる。
時計を見ればもうすぐ7時。そろそろ角を曲がって待ち合わせの店に行こう。
きっとあの角のところでアイツに会う筈だ。
「ばか、手袋ぐらいしろ」
そう言いながら冷たいあたしの指先を持って温めてくれるだろう。
それがあたしとアイツの関係。
*-*-*-*-*-*-*
路地裏の角を曲がりいつもの店に行く。
店の前でアイツが俺を待っている。
鼻の頭を赤くしてかじかむ指先に息を吹きかけながら
手袋しろっていいつつ、あいつの指を持って温める。
それが俺とあいつの関係。
今日はもう一歩だけ進めてみようかな?
いつ変わる?


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