No.043 キスキスキス......スキ 類つく
風が吹いて木枯らしが舞っている。
ぶるぶるぶるっ……きっとどこかで雪が降ってる寒さだ。
こんな時は、お鍋でも食べて心身ともに温まりたい気分だなぁーなんて思ったら、タイミングよくスマホが鳴った。
「牧野、俺」
「おっ、類」
「寒いね」
「うん。寒いよね。今晩は豚しゃぶにでもしない?」
「あっ、いいね」
「じゃぁ、あとでね」
約束を交わした後、あたしは階段を降りデパートの食品館に向った。
お肉屋さんのショーウィンドウを眺めながら、あぐぅ豚にするか東京Xにするか真剣に悩んでから半々ずつ買ってみた。
青果コーナーでホウレン草と大根を手に取ってカゴに入れる。
「ポン酢はあった筈だから、うーん。あっ、そうそう」
苺とスライス餅をカゴに入れた。
デパートで食材を買うなんて昔のあたしにしたら信じられない事だなぁーなんて思いながらキャッシャーに並ぶ。
類との関係ももう何年になるんだろう?ヒー フー ミー と指を折り曲げ数える。
「うわっ」
出会ってから18年__思わず声を上げて驚いた。
前の人が怪訝な顔をして振り向いている。あははっ、指先で頭を掻いた。
勝手したたるなんとやらで……類の部屋のドアを開け部屋に入る。上がり框のないフラット玄関は、ようやっと慣れたけど…..掃除が面倒だよね?なんて毎度毎度思ってしまう。
類に聞いても「さぁ、どうだろう?」なんて答えしか帰って来ないから尚更だ。
まぁ、類が掃除するわけでもないから......そりゃそうか。
コートハンガーに掛けエプロンを付ける。手を洗い食材を切って鍋の用意を整えた頃、ピンポーンとベルが鳴る。
はいはいと声を出しながら玄関に迎えに行く。類は、あたしがこの部屋に来てる日は、絶対に自分でドアを開けない。
「ただいま」
「プッ」
「プッじゃなくて」
「お帰りなさい」
そう言えば嬉しそうに類が笑う。
「ねぇねぇ、今日ね類と出会ってから何年経ったかなぁーって数えてみたの。何年だと思う」
「18年」
「うわっ〜流石類!間髪入れずに答えが返って来るねー凄い、凄い」
「そりゃどうも……で?」
「あぁ、でねでね凄いなぁーとビックリしちゃったのよ」
「まぁ、でもあんた何回も俺の前から居なくなったけどね」
「ふへっ、やぶ蛇って感じ?」
「やぶ蛇じゃなくて本当でしょ」
「うへっ」
うがいと手洗いを終えた類があたしの前に唇を差出してくる。
チュッとキスをする。
ご飯を食べ終えて苺を食べながらカウチに2人で腰掛けてテレビを見る。苺を一つ食べることに唇を差し出して来る。
「前、見えない」
文句を言えば
「じゃぁ、見なけりゃいいよ」
なんて言い出す始末……楽しみにしてたドラマ。見ないわけには行かない。
ところでこの人は、いつからこんなに困らせやになったんだろう?首を傾げれば
「他の事は、考えないで今日は俺に集中の日だよ」
なんて事を臆面もなく言い放つ。
あっ、そうそう……話しを元に戻そう。あたしと類は出会って18年経つけど久しぶりに再会を果たしたのは、実は先々月の事だ。
判事になったあたしは、長々と地方を転々として今年の9月にようやっとここ東京に戻って来たのだ。その頃、まだフランスに居た類に東京に戻って来たよーと気安くメールした。何故か?ひと月後___類も東京に戻って来た。類が帰国した週末、2人で飲みに行った。それが間違いだった。
いや、久しぶりにあった友達と飲みに行ったのは間違いじゃなかった筈。じゃぁ何が間違いかと聞かれたら__あははっ、飲み過ぎたのだ。学生時代と違ってかなりお酒に強くなったと自負しているあたし、滅多矢鱈に酔っ払うなんてない筈なのに__類に会って気を許しすっかり酔っぱらいになっていた。いやっ、それさえも本来ならば間違いじゃない筈だ__多分、うん絶対。
ただ、そっから先が問題だった……酔っぱらいのあたしは、類に抱きつきキスをして。そのキスがトロトロに蕩けそうなほどに気持ちよくて__類を押し倒したのだ。
翌朝、真っ裸な自分と類を見た衝撃と言ったら__半端無く後悔が押し寄せた。ソロリソロリと部屋を出て行こうかと思ったら__あははっ、自分の家の自分のベッドだった。
「くぅっーーーー」頭を抱えた。友達と__しかも類と寝てしまったなんて。罪悪感に見舞われた。
ベッドの中で頭を抱えるあたしに、いつの間にか起きた類がニッコリ微笑みながら
「責任とってね」
「せ、せ、責任?」
「そう、責任。じゃなきゃ逆レイプで訴える」
「えっ、それ、刑法上では罪にならない」
「へぇー でもさぁ、牧野の経歴には傷がつくんじゃない?」
脅迫まがいの事を言われてるのに___あまりにも綺麗な顔で微笑まれて……あの日から週に一度こうやって会うようになったんだ。
とは言え__それは別に恋人同士とかそう言うことじゃなく、週に一度こうやってご飯を2人で食べて、のんびりと寛ぐ日々を送っているのだ。お陰さまで乾ききってたあたしの身体は潤いを増し体調もすこぶるいいようだ。
「牧野、最後の苺入れて」
チュッと触れ合うキスをしてから、最後の苺を類の口の中に放り込んだ。
苺を咀嚼し終えた類が今度は、あたしに本気のキスをする。トロトロに蕩けそうなキスを味わって__今夜もまたワインのせいにしてあたしは類を押し倒しちゃうんだろうか?
もう少しだけ素直になってみる?


Reverse count57 Colorful Story 応援してね♪
- 関連記事
-
- No.063 スキスキスキ...キス 類つく
- No.058 運命のキス 類つく
- No.053 真っ赤なネイル 類つく
- No.043 キスキスキス......スキ 類つく
- No.038 霜柱 類つく
- No.033 押し売り 類つく
- No.028 タルトポワール 類つく