baroque 29
ほんの些細な事から
décousure
少しずつ
décousure
嘘はバレていくのかもしれない
美貌と共に人々をひれ伏せさせるオーラーを身に纏いながら薫は、宗像と共につくしの元にやってきた。つくしに向けて極上の笑顔を浮かべる。つくしは、ほんの少しぎこちなく微笑みを返した。
「どうした?疲れた」
「えっ?あっ、うん。でも大丈夫」
「少し早めに帰らせてもらおうね」
「ううん、大丈夫だよ」
「だめだよ。風邪でも引かせたらお婆様に大目玉喰らっちゃうからさ」
「あの、薫……」
つくしが薫に質問をしようと名を呼んだ時
「これは、宝珠様」
下卑た笑いを浮かべた年配の男が薫に近づいて来た。
つくしを一瞥したあとに薄らと蔑むような笑みを浮かべたあと、自分の自己紹介と共に、隣りの美しくきらびやかな娘を自慢気に紹介し、挨拶をさせる。
「二川菖蒲と申します。宝珠様とは、以前青山のサロンですれ違わせて頂いておりますの。今回このようにお会い出来て運命を感じますわ。是非今後とも懇意にして頂ければ嬉しいですわ」
腰をくねらせ媚びをうる。不躾な親子の態度に場が凍る。
薫は一顧だにせず、つくしの細い腰を抱き自分の元へ寄り添わせようとした。
賛辞を送られることがあっても男に無視などされた事の無い二川の娘は、あろうことかつくしの腕を強く掴んだ。
薫の眉がピクリッと動く。
東雲夫人がゆっくりと近づいて来て
「二川さんとかおっしゃったかしら?あなたの会社が明日も生き残りたいのなら、お嬢さんを連れて今直ぐこの場を立ち去りなさい」
東雲夫人の言葉に二川は慌てふためき娘の手首を掴みその場を立ち去ろうとするのに娘は、キッとした顔でつくしを睨み上げ
「ふんっ、あなたなんて色んな男に色目使ってるだけのただの淫売女じゃない」
そう罵りをあげた。
東雲夫人は、怒りで握った拳を震えさせながら執事の西尾に
「何をやってるの、早くこの親子を連れ出しなさい」
と声を荒げた。
執事は、SPに目配せをして二川親子を連れ出させようとした。
女はバタバタと手足を暴れさせながら
「ふんっ、本当の事じゃない。どこの筒井だか知らないけれど、私、あなたをサロンで見てるから見間違えなくてよ」
つくしの瞳が大きく見開かれ鼓動が波打つ。ぐらりと身体が揺れた。薫がつくしの身体を抱き止める。
「失せろ」
低い声で薫が一言そう洩らした。
二川は、娘の頬を幾度も幾度も叩き薫に向い何度も
「もうコイツは日本には居させませんのでどうかどうかご慈悲を」
そう懇願しながら去って行った。
薫は、真っ青な顔のつくしを胸に抱き上げる。騒ぎを聞きつけて駆け付けた東雲会長に失礼を詫び会場を後にした。
場に居合わせたものは、薫の怒りに脅威する。絶対王者の薫はいついかなる時でも穏やかな笑みを浮かべ悠然と立っている。どれだけ困難な交渉ごとでも……その笑みが崩れる事がないので有名なのだ。そんな彼が垣間見せた怒りの感情。
宝珠を筒井を敵に回したくないのなら、つくしを崇める事があろうとも陥れるようなことがあってはいけないのだとこの場に居合わせたものは、再確認した。


ありがとうございます♪
- 関連記事
-
- baroque 32
- baroque 31
- baroque 30
- baroque 29
- baroque 28
- baroque 27
- baroque 26R