baroque 31
燻った思いは
lame
刃となって
lame
愛する者を攻撃する
つくしは、ベッドから立ち上がり
「なぁーんてね。冗談 ふふっ 今切ったら雪乃さんに大目玉貰っちゃうよね。大振り袖を着るのにショートカットじゃね」
クスクスクスと笑ってから
「ねぇ、あの人はどうなるの?」
「あの人って?」
「パーティーであたしの腕を掴んだ女の人」
「つくしは、気にする必要はないよ」
「自分が関係した事なのに……あたしは、なんにも知らなくていいってこと? ぅふっ、あたしはいつでも蚊帳の外なのよ…ね」
「つくしっ?」
「どうせ色々調べるんでしょ。あっ、もう調べ中かな? ぅふっ その後は、何もなくてもマンションの中にも学校にもあたしに見張りを付けるのよね。それとも......あたし、何か理由をつけて京都に帰されちゃうのかな」
薫の知らないつくしが言葉を繋げる。
「あの人が来る前にね、東雲のおば様が薫とあたしの婚約の正式なお披露目が直にあるって仰ってたの。ねぇ、それってどう言う事?お誕生日会にってこと? そんな大事な事も、全部全部あたしは知らなくてもいいってことなんでしょ」
「そう言うわけじゃないよ」
「じゃぁ、どういうワケ?
正式にお披露目なんてされたら……
あたしには、全ての自由がなくなるんだよ」
「つくしは、嫌なの?」
「なんで嫌じゃないと思えるの?
ねぇ、だってアレもダメ、コレもダメ。ダメダメばっかりなんだよ」
「あれもダメこれもダメだなんて……つくしに誰も強要した事はないよ」
「嘘。いつだってダメばかりじゃない。
それに……だったらなぜあたしに全て内緒で進めるの?
ねぇ、なんで他の人から色々な事を聞かされなくちゃいけないの?」
「婚約の事は、僕からお婆様にきちんと後で聞くから……先ずは、落ち着いて」
「あたし、落ち着いてるよ」
つくしが真っ直ぐに薫を見つめて口にする。
「じゃあそれはもう僕には、付いてきたくないってこと?」
「薫はずるい。そうやって直ぐに話しをすり替える」
本当にずるいのは、自分の筈なのに……
総二郎との時間を守る為につくしは、愛する男に刃を向ける。
「だったら、どうして欲しいかきちんと言ってご覧よ」
「きちんと言えば叶うの?」
「叶うかどうかは解らないし、叶えてあげれない事もある。でも、言わなきゃ何も叶わないだろ」
つくしが初めて耳にする薫の怒声。ビクンッとつくしの肩が揺れた。
「__ごめん__大きい声出して」
指先で眉根を揉んだあと髪をかきあげながら大きく溜め息を吐き
「……で、つくしは、一体どうしたいの?」
薫にどうしたいのかと聞かれたつくしは
「自由になりたい。
毎日の送り迎えなんて要らないし、お友達と遊びに行くのにSPをつけるのも要らない」
つくしの心からの叫びに薫は、無理だとにべもなく答えた。
その答えにつくしは、何故駄目なのかと珍しく食い下がる。
「筒井の者を狙う人間なんて山ほどいるんだよ?」
「あたしは、筒井の者じゃない。あたしは、あたし。牧野つくしよ」
永年燻った思いを吐露させる。
「……名前の事を言ってるんじゃないんだ。実際問題危ないから言ってるんだよ。つくしは疑うかもしれないけど、SPを付けた所で君の安全管理をしているだけで、逐一どこに行ったとか誰とどうしたかなんて報告させてなんていないよ」
「でも__あたしは嫌なの」
「お願いだよつくし……この事に関しては自由になんてさせれないんだ。SPの事は、空気とでも思えばいいんだよ。現に中学高校と送り迎えの車もSPも付いてたよね…それでも、何の気兼ねもせずに皆と遊んでいただろう? 白泉の子達も皆一緒だった筈だし、彼女らも今だって、この先結婚したってつくしと何らかわらない筈だよ」
「白泉の子達は、もともとそういうお家に生まれて来た子だもの。でも……あたしは、違う」
「あたしは、違う...か。......そうだね、確かに君をこんな不自由な生活に巻き込んでしまったのは、僕等のせいかもしれない。でも、もう後戻りは出来ないんだよ。第一、今さら君を自由にしたところで、君が筒井にとっても宝珠にとっても一番の急所になるのは変わりないんだ。筒井から離れようがどうしようが、君にSPを付けるのは変わらないんだよ」
薫の言葉に、つくしは無意識に耳朶を触りながら下を向いた。


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