baroque 32
美味しそうな
insecte
蜜をもつ花には
insecte
蟲が集る
「その癖__小さい時から変わらないんだね……」
薫が、ポツリと口の中で呟いた。
「ぇっ?今なん…」
問いを掻き消す様に指先が、顎先から唇に移動して唇の輪郭をなぞりあげながらふわりと微笑む。
「ねぇ、つくし、なにか疾しい事でもあるの?」
ゴクリッ
つくしの喉が上下する。
薫の指先がつくしの喉を這う。骨張った指の感触が喉元に伝わってくる。
「お披露目のことは、僕からきちんと話しをつけるから心配しないでいいよ」
薫は、もう一度つくしの唇を指先でなぞりあげてから、何事もなかったようにニッコリと微笑んだ。
「さぁ、食事にしよう」
「……ねぇ、なんで......あたしの話しを無視するの?」
「無視なんてしてないよ。お婆様には、僕からきちんと話すって言ってるよね?」
「そうじゃなくて...なんであたしが知らない所で話しが進んでるかって聞いてるの」
「それもきちんと話すから......取りあえず落ち着いて」
「落ち着いてるって何度も言ってるよ」
「だったら、先ずはきちんと着替えて食事にしよう」
薫はつくしに手を伸ばす。
つくしは、左右に激しく首を振り
「いやっ、いやっ、いやよ......ねぇ、なんで、なんで、あたしだったの?ねぇ、なんで、あたしだったの?」
「なんで?って ぁははっ、そんな事を今更聞くんだ? つくし…君は、一体どれだけ僕を傷つければ気が済むの?」
「傷つけるなん…て…そんな事、そんな事……ただ薫ならどんな女性だって……」
つくしの言葉を遮り
「だったら君がしているのは、侮蔑だよ……」
「…侮蔑なんて、侮蔑なんてしてない」
「じゃぁ何? どう言う意味で言ってるの? 僕はもうつくしにとって用済みだからどこかに行けとでもいいたいの?」
「そ、そ…そんな事」
「僕の目をきちんと見て、そんなことはないって言い切れる?」
ゴクリッ
つくしの喉が上下して、指先が耳朶を弄る。
「つくし、何をそんなに恐れているの? ねぇ僕に教えてよ」
「…………」
「フッ、答えられないってこと? だったら、それはそれでいいけどね」
薫の手が伸びてつくしを抱き締める
「髪が切りたいなら切ればいいさ。つくしの好きな髪型にして好きな格好をすればいい。誕生日会に出たくなければ出なくたって構わないし、婚約を解消したければすればいい。でも、僕は、つくしを手放さない」
そう言った後。目の前の美しい男は、つくしの後ろ髪をかき上げる。
「ねぇ、……いつから?」
「…い…いつからって…何が」
一瞬でも気を抜けば、震えそうになる声でつくしが言葉を返した。
薫の指がつくしの喉元を這う。首の軟骨のところで指先が止まりキュッと力が入れられる。
「ぁっ、ックっ」
苦しそうに擦れた声がつくしの口から漏れる。
スゥッと力が抜かれた指先が、軽い羽根のように喉元から項に這う。
「ここ どうしたの?」
つくしが答える前に
「何か悪い蟲にでも刺されたのかな?」
ベッドから薫が立上がりつくしを見下ろす。
「君の肌を傷つける悪い蟲には、僕も注意しなくちゃいけないかな。ねっ、つくし」
腰を屈め、おでこに一つキスをする。
「さぁ、下で食事にしよう」
柔らかい言葉と極上の微笑みを愛するものに浮かべる。


ありがとうございます♪
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