No.055 アキラとあきら あきつく
ニャーと猫が鳴いた。
まるで、僕を一緒に連れて行って下さいと言う様に猫が鳴いた。夜空には、お月様とお星様がくっ付く様にならんでるそんな夜だった。
「あんた、あたしん家に来る?」
それがあたしの相棒、アキラとの出会いだった。
あっ、猫の名前はアキラ
アキラって名前をつけた理由? 理由なんてない。ただ何となく、アキラを見た瞬間、あぁ、このコの名前は、アキラだって思ったんだ。
アキラは、自由気ままに居なくなる。元々が野良だからなのか__するりと抜け出していなくなる。勝手気侭なコ。でも、必ずあたしの所に帰って来る。 アキラはそんな猫だ……
ママには、
「もぉ、捨て猫なんて」と言われたけれど……
「ワンランク上の高校目指すからお願い!」
説得に説得を重ねてあきらを飼ってもらうのにOKを貰った。
アキラは招き猫みたいなコで、アキラと家族の写真を待ち受けにしていたパパは、取引先の猫好き社長にえらく気に入られて出世した。
ママはウハウハッで、あたしと進に過剰な期待をするのを辞めた。
ついこないだまで
「英徳行って目指せ玉の輿!」
だったのが__人生地道に生きるパパみたいな人が一番なんて趣旨替えして
「手堅くね、手堅く生きるのが大切よ」
なんて事を言い出した。
そうそう人生手堅く。
勤勉をモットーに、高校大学社会人になった。
OL3年もうじき4年目に突入だ。
あたしの勤めてる会社は……まぁ、自分でも言うのもなんだけど中々の大手だ。ってか、かなりの大企業だ。
毎年、入社したい会社ベスト5の中に入っている。
コネもない。美貌もないあたしが美作に受かったのは、〝奇跡〟に近い事だと感謝している。
だって、だって、
ブラック企業がはこびるこのご時世……なんともまぁ素晴らしい会社だ。
なんせ、社食はあるわ、保養所はあるわ、フィットネスクラブやらなんちゃらのチケットの福利厚生までついてたりする。
お給料だって、破格とまではいかないけれど……中々良かったりする。30代の平均年収ランキングなんていうにのも。ベスト5に入ってたりしてるんだから。
まぁ、そんなワケであたしは、自分の会社にかなりの誇りを持っている。
出来るなら、あたしはここ美作で一生働いていきたいと思っている。その為には、余計な事では目立たず、だけど無ければいけない存在目指してる。そんなあたしの所属部署は、貿易事務だ。
「牧野さん、食事にでも行かない?」
時折誘われる事もあるけれど、おじいちゃんアキラが家で待ってるから断ることにしている。
彼氏? あははっ……自慢じゃないが彼氏いない歴=年齢だったりする。あははっ、自慢になってないか。でも、あたしにとってアキラと過ごす時間が一番だった。
なのに、なのにだ……パパの転勤と共にあきらは、付いて行ってしまった。
12年も一緒に居たのに、淋しくて堪らなくて__あたし牧野つくし25才……遅らせながら飲んで、飲んで毎晩の様に飲み歩いた。
飲んだ夜の締めの台詞は
「アキラーーーー」だった。
どこからか
「はーい」と返事が聞こえてきた。
二人で朝まで飲んだ。
その晩、ニャーとあきらが泣いた夢を見た。
朝、起きたら隣りにあきらがいた。
その日からあきらは家に住み着いた。
家に帰れば、あきらが居る。
幸せな日々が帰ってきたかのような錯覚に包まれる。
あきらがいるのがすっかり日常的になった頃___
「また連絡する」
そんなメモだけ残してあきらが消えた。
消えた事がショックで1週間寝込んだ。漸く元気になって会社に行けば……
部長が嬉しそうに
「牧ちゃん、牧ちゃん、本社に辞令だよ」
一生横浜支社で働くと思っていたのに__本社に辞令って…… だけど、しがないサラリーマン。断る訳にもいかなくて翌日から本社勤務決定だ。
「あ、あ、あのぉ、引き継ぎとかは?」
「あぁ、なんでもね本社の貿易事務の子がね横浜支社に移動したいらしくてさぁ、ホラッ同じ仕事だしね。それと……実は先週からもう来て仕事してもらってるんだよ。向こうは向こうで早く語学が出来る子が必要だって行ってたからさぁ」
てな訳で、翌日からあたしは本社勤務に決定だ。
アキラも、あきらも、慣れ親しんだ職場もなくなった。はぁっーーー でもしゃぁない。女牧野つくし腹を括って、いざ出陣!
で、ビビった。ビビった。支社も立派だったけど__いやっ、本社に何回かは、来てた筈なのに……立派な会社でビビリました。はい。
人事部長に連れられて直属の上司になる美作専務に挨拶に向う。
美作専務、ずっと海外勤務だったんだよね。
幾つくらいなんだろう?
どんな人なんだろう?
良い人だといいなぁーなんて考えながら廊下を歩いた。
ガチャッ
ドアが開けられる。
「美作専務、こちらが今日から美作専務の下で働いてもらいます牧野つくしさんです」
光をバックに、くるりと椅子が回った。
3、2、1、0
さぁ 始まる。
出会いは唐突に訪れる


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