No.066 柔らかな夜 byみかんさま
星空よりも
月よりも
綺麗なものを
俺は知ってる
「綺麗な星空が見たいなぁ〜」
無欲を絵に描いたような彼女が、なんの気なしに漏らした言葉が心に残っていた俺は、いつもの団子屋のバイトが終わる時間を見計らって待ち伏せして、びっくりして慌てふためく牧野を拉致って飛行機で3時間、フェリーに乗ること2時間半……
日本の最南端にある星の名所として名高い沖縄県のとある小島にある花沢家の別荘に無理やり連行した。
船を降りるまでは「もったいない」「わざわざこんなところまで」なんて、文句ばっかり言っていた彼女だが、陸に降りた途端に感じた南国の風に感化されたのか、あっという間に小さな憤りを投げ捨てた。
「わぁ〜〜っすごい星!綺麗だね〜」
「ん…本当だね」
別荘の庭にある小高い丘を、バスケットに軽く摘める食べ物やワインとグラスを用意して登り、草っ原の上にブランケットを敷いて、牧野と隣同士で寝っ転がって見上げている空は、天然のプラネタリウムとでもいうような、まさに降るような星空だった。
さっきまで、ぶうぶう文句を言っていた筈の彼女は、大きな瞳をそれこそ零れそうなそうなほど見開き、ぽっかりと大口を開けて空一面に散りばめられた無数の星々に見惚れている。
満天の星空の下、俺の視線は隣でしきりに感嘆の溜息を漏らす彼女の横顔に釘付けだ。
ジーッと穴が開くほど見つめる俺の視線に、
何を勘違いしたのか、牧野は少しバツが悪そうな表情をして、恥ずかしそうにボソリと呟いた。
「…さっきは、もったいないなんて言っちゃったけど……連れてきてくれてありがとう」
「ん〜どういたしまして。もったいないは牧野の決まり文句でしょ?気にしてないよ」
と、軽く揶揄うように言言い返した。
普段だったら「何それ!」とか「ひどいよ〜!」なんてすぐに怒り出す短気な彼女だが、今夜は肩を震わせてクスクスと小さく笑った。
「ふふふっ、ほんとそうだね〜」
その反応が意外で、類は上体を起こしてつくしを見下ろすと、仰向けで寝っ転がり、星空を眺めていた牧野がチラッと類に視線を流し、おもむろにあ〜〜んと大きく口を開いた。
「…くくっ、なに、大口開けてんのさ?」
その食いしん坊の子みたいな仕草が可愛くて笑いかけると、
「だって、こ〜んなにいっぱい星があったら一個くらい落っこちてきそうじゃない?」
などと、意味のわからないことを言って釣られたように牧野もケラケラと笑った。
「…ぷっ、何それ、あんた本当に食い意地張ってんね?」
再び揶揄うと、今度はさすがに拗ねたようにほっぺたを膨らませて、
「だって、綺麗な金平糖みたいで美味しそうなんだもん」
などと、類くらいにしか意味のわからないようなことを言って笑う。
「ははっ確かにうまそうだよね?なんなら月…食べてみる?」
満天の星空の真ん中にくっきりと浮かぶまん丸の月を指差しながら提案してみる。
「え〜?お月様なんて食べられるわけないじゃん」
牧野は天に向かって両手を伸ばし反動をつけて起き上がり、キョトンと不思議そうな顔をした。
「食べられるよ?」
至極真面目に答えると、「も〜いくら何でもそれは信じないよ」と、全く取り合う気配も見せない。
じゃあ、証明しよう。
よっこらせと起き上がると、2つのグラスにワインを注いで一方を牧野に手渡した。
牧野はグラスを受け取ったものの、言葉の意味がわからないと言うように俺を見返してくる。
鈍いヤツ。
にっこりと微笑みながらグラスの中を指差して囁いた。
「…そこに月が浮かんでるでしょ?」
二人で頭を突き合わせてグラスを覗き込むと……金色の液体の表面に、夜空に浮かぶ丸い月が映り、ゆらゆらと揺れていた。
「あ…………っ!」
牧野は弾かれたようにパッと顔を上げると、心底嬉しそうに類を見上げた。
彼女の黒い瞳にもまあるい月が映り込んでいた。
「こんなところにも月が浮かんでる」
牧野をそっと引き寄せ、目尻に唇を寄せ小さな軽いキスをした。
Fin
食べちゃいたいくらい君が好き


Reverse count 34Colorful Story 応援してね♪
- 関連記事