No.057 マキちゃん食堂の憂鬱 司つく
だが、真っ白な飯といつもの味噌汁に美味い魚と漬け物__何よりも晴ちゃんや千恵ちゃんの笑顔が俺等の心を身体をほっとさせるそんな店だ。
マキちゃん食堂の辺りの土地は__実は俺等常連で全部買い占めてある。どんだけ都市開発が進もうが、どんだけ表通りがキラビやかになろうが、ここマキちゃん食堂は、このまんまで変わらない。
ボーン ボーン ボーン 6時の鐘がなる。
「おはようございます」
マキちゃん食堂の看板娘のつくしちゃんがオッチャン達を迎え入れる。
「つくしちゃん、今朝はどうした?」
オッチャン達が口々に聞けば
「どうもこうも里帰り中です」
いつものようにニッコリ笑いながら、そう返して来る。
後ろを見れば、晴ちゃんと千恵ちゃんがなんとなく顔を引き攣りさせながら笑ってる。
はぁはぁーん、こりゃぁまた喧嘩って奴だな。で、里帰り中って奴か。まぁ、なんだ__夫婦喧嘩は、犬も食わねぇ だな。
いや、それよか 触らぬ神に祟りなし のが当たってるか?
まぁどっちにせよ、2日もすりゃ帰んだろうなんて高を括ってた。
それがどっこい、一週間経っても帰りゃしない。それどころか、司も迎えに来やしない。
なんとなく、つくしちゃんもピリピリしてる。店の中にも俺等にもなんだかピリピリモードが蔓延していく。
「スケさん、俺等のオアシスが大変だ」
「あぁ、カクさん、てぇへんだ」
「このままんじゃ、俺等の仕事にも支障がきちまうな」
「八ちゃん、あんた仲人だろうよ。責任もってなんとかしてくれよ」
結果的に俺にお鉢が回って来た。
ったくなぁ__こう言うときだけ仲人、仲人ってなぁ
「八ちゃんが丸く収めたら、ほらっ、会津さんとこの仕事、八ちゃんの会社にも一枚噛ませてやるよ。なっ、だから宜しく頼むよ」
会津さんのとこの仕事は、喉から手が出るほどに欲しい。それに俺だってこの状態が続くのはなんともまぁ嫌だってもんだ
「おっ、ノッタ!」
てなワケで、俺等のオアシス奪回の為に先ずは事情調査が始まった。
つくしちゃんが奥に引っ込んだ隙に千恵ちゃんに声をかける
「千恵ちゃん、千恵ちゃん、つくしちゃんどうした」
そう聞けば……引き攣った顔で笑いながら
「あははっ、里帰り中ですよ」
「里帰りって、そろそろ一週間過ぎるだろ? ちょいと長くねぇか?」
「あぁ、いま__」
千恵ちゃんが何か重大な話しを言いかけた所で奥に引っ込んでたつくしちゃんが定食を持ちながら戻って来る。
「つくし、あんたは会計だけでいいって言ってるでしょ」
千恵ちゃんが慌ててつくしちゃんのお盆をひったくる。
つくしちゃんは、なんだか不満げに唇なんか尖らせて
「はぁっーー あっちもこっちもダメダメって堪んないねぇー」
なんて呟いたあと
「ねっ、八さん!」
なんて俺に同意を求めて来る。
YESというかNOというか__散々ぱら悩んでから
「ははっ」
空笑いを返せば
「あぁ、空笑いなんて__八さんだけは、小ちゃい頃からあたしの味方だと思ってたのになぁー」
なんて事を珍しく言って来る。つくしちゃんに直接聞けば面倒な事に巻き込まれそうだ。本能が深入りすんなと囁くのに……なぜか聞いちまった
「つくしちゃん、どうした?」
つくしちゃんの顔がパァッーーと花開く。
「あのね、八さん__あたしね、凄い暇なの。ココに帰って来てもお客様状態で何にもさせてもらえないし、司んとこなんてもっと何にもさせてもらえないしね。だから、八さんの所で働かせてくれないかな」
定食を置き終えた千恵ちゃんが
「つくし、何言ってんの。八さんに迷惑でしょ。それに第一、司くんに怒られるわよ」
「道明寺のバカは、只今イングランドです。ママとか八さんとかココの皆が黙ってたらバレません」
あぁ、そうかそんで司は迎えに来なかったのか。
でもだ、司に黙って俺の所でつくしちゃんを働かせる? イヤイヤそりゃないだろう。そんな事してみろ下手したら大問題に発展しちまう。
それにだ。つくしちゃんに付けてる警護のもんが報告すんだろうが。バレないなんてねぇだろうが。
「何でもいいの。思いきっり働ければ。ねっ八さんお願い」
「いやぁー 道明寺家の若奥様を俺の所で扱き使ったら大変な騒ぎになっちまうよ」
「あっ、じゃぁさ、喜八の散歩は」
「喜八は猫だ」
「猫に首輪付けてお散歩とか今流行ってるんだよ」
「いやぁ、そりゃいいな」
そんなんやってみろ。警護がゾロゾロと逆に大変だろが。
ったく、つくしちゃん__あんたどこのどいつに嫁いでみたか、ちったぁ考えろ。
「じゃぁ、佐助の散歩は」
「つくしちゃん、佐助はインコだ」
「インコもね、リードがあるんだよ」
だからだな__
「つくし、いい加減になさい。八さん、困ってるでしょうが」
「ちぇっ、ママのケチ。ホント、道明寺と一緒だよねぇーてやんでぇってんだ」
「つくしっ」
「だって、ひま、ヒマ、暇なんだもーーん」
「取りあえず、司くんが帰って来るまでは、じっとしてる約束でしょ」
「ぁあぁーあぁーー どっかにあたしの味方はいないのかしらねぇー」
「つくしちゃん、早紀に付き合って観劇鑑賞はどうだ?」
「早紀さん昼間働いてるから、それって夕方とかになっちゃうよね?」
「夕方は都合が悪いのか?早紀とならちゃんと警護もつくし司も文句あるまいだろうよ」
「うーーん 夕方はどっちかって言うとあたしの身体の都合が悪くて__」
あははっ なんて笑ってる。つくしちゃんの都合?
うーーん 余計謎が深まった。
司が帰国してつくしちゃんを無事連れ帰ったのが、3日後だった。
再び訪れる穏やかな朝、取り戻した俺等のオアシス。
だが、俺の頭には、あの日から謎が深まるばかりだ。早紀に聞いてみれば
「あらっ、そう。うふふふっ」
なんて笑って、あとは教えてくれなかった。
謎が判明したのは、それから半年後___仲人やった俺等のとこに新年の挨拶とやらで2人並んで来た時だ。司の前にも増しての溺愛ぶりと___つくしちゃんの少しふっくらした顔と膨らんだ腹、極めつけは早紀の
「やっぱりそうだったのね。おめでとう」
の言葉に
「ありがとうございます」
とハニカんだ__司の蕩けそうな顔。
つくしちゃんの身体の都合は、夕方からの悪阻だったんだ。
そりゃぁ、あれダメ、これダメになるわけだな。
ははっ、目出てぇな。ったく、本当に目出てぇな。
こりゃまた終わりがいいようで


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