No.058 運命のキス 類つく
リップ音がしてを覚ます。
うんっ?なんだろう。この柔らかい物体。フワフワして気持ち良いなぁー 運命の相手がいるならば、きっとこんなキスをする相手なんだろう。なんて事を思いながら唇に指を這わせて薄目を開けた。
目の前に、目の前に、陽の光を浴びてキラキラと輝く王子様が居た。
えっ?えっ? 何?何?
慌てて飛び起きてみれば、やっぱりキラキラしてる。
まさかあたしの人生でリアル王子様に、こんな接近する日が来るなんてあるワケがない。
だからこれは夢。
うん。絶対夢だ。うん。間違いない。じゃぁ、お休みなさいとばかりに毛布を被ってもう一度眠ろう。うん。眠ろう。
なのに チュッ
もう一度、フワフワの夢心地の物体が唇に降って来た。
「おはよう」
なんて日本語を操っている。いや、喋ってる。
パチリッと一気に目が覚めた。
「あ、あ、あ、ぁ、あ、あなた誰?で、ここどこ?」
キラキラ王子があたしにシャツを手渡して来る。
シャ、シャ、シャツ?
視線を下にずらして見て見れば__
はい。あたし真っ裸でした。
はい。乳がバーンとでてました。あっ、小ちゃな胸の場合でも表現方法としては、バーンでいいのかしら?なんて一瞬考えた。いま、そこじゃないと自分で自分に突っ込んだ。
「えぇーーーーなんで裸?なんでなんで?」
「あんた、随分騒がしいね。あんた起きた事だし俺ちょっとシャワー浴びて来るね」
キラキラ王子は、ニコニコ微笑んでからバスルームに消えていった。
辺り一面に散乱してる服を手早く身に付け、ソロリソロリと部屋を出た。
部屋を飛び出したあたしは、表通りに出てタクシーに飛び乗った。
「ふぅっーー」
知らない内に呼吸を止めていたのかタクシーに乗った瞬間、安堵の溜め息を吐いた。乱れた髪を手櫛で整えてから、昨日の事を反芻する。
同僚の寺田君と入社2年目のまゆゆちゃんの結婚式だった。
あたしは寺田君の事が好きだった。このまま行ったら何となく付き合っちゃうんじゃないかなぁーって感じだった。いやっ、それさえも今考えると盛大な勘違いかもしれないけど……何となく好きみたいな告白みたいな事も言われていた。酔った勢いでキスをされそうにもなった事もある。あっ、この時は、あんまりビックリして慌てふためいて突き飛ばしちゃったけど。いつかは……この人となんて淡く思ってた。
丁度舞い込んで来た海外出張。3ヶ月の海外出張から戻ってくれば、まゆゆちゃんが得意気に、寺田君が少し目を逸らしながら二人で結婚式の招待状を手渡しして来た。
まゆゆちゃんは、なんともまぁ女の子らしくフワフワとしながら___意地悪だった。彼女は、あたしの気持ちを知っていて二人の披露宴の祝辞を頼んできた。しかも新婦まゆゆちゃんへの祝辞だって。
ははっ 傷口に塩?えぇぇえぇ、たっぷりと塗りこませて貰いましたとも。
エッちゃんと加代に2件目まで付き合ってもらった記憶はしっかりある。二人とも子供とご主人が待っているから__二人とバイバイした。
一人になって、より一層の物悲しさが襲ってきて……行った3件目のバーでキラキラ王子に出会ったんだ。
なんだかどこかで見た顔みたいで気安く声をかけ、バンバン背中を叩きながら
「ぅわははっ ねぇ、ねぇ、なんでキラキラしてんの?やっぱりキラキラが入ったクリームとか付けちゃうわけ?ねぇねぇ」
最初呆気にとられたキラキラ王子もその内、ツボったらしく肩を震わせて笑ってた。 すっかり意気投合したあたしとキラキラ王子……王子のマンションで飲み直す事に決まってた。
王子の部屋で、ドンペリプラチナを発見して2本空にした。
で、盛大に吐いた。
次々に思い出して……後悔が押し寄せてくる。きっと客観的にあたしを見てる人がいたら、青くなったり赤くなったりと電飾看板のように顔色を変えるあたしを見る事が出来ただろう。
あははっ__穴があったら…あったら……入り…たい。
穴はないのでせめてものお詫びとばかりに、自分が飲んだ分のドンペリ代と着て来てしまったYシャツを山田花子の偽名で送って、綺麗さっぱり忘れてることにした。
週明け、いつも通りの朝がやって来て眠い目を擦りながらエレベーターを待っていた。
女子社員のキャッーという悲鳴に似た黄色い声が後ろから聞こえて……振り向いた。
「っん?何あの人集り?」
「ほらっ、噂の花沢専務ですよ」
「噂の専務?あぁ、あたし初めてかも」
別の子が
「えぇ、そうなんですか。あぁ、牧野チーフ、出張続きでしたもんね、専務って王子様みたいなんですよー 朝から一緒の空間なんて今日は、ついてますよ!」
王子?王子と聞いて一瞬土曜日の痴態が蘇りそうになって首を振った。まぁ、そんな偶然あるワケも無いしと、噂の専務とやらを拝もうと後ろを振り向いた。
「ギョッ」
思わず吐いて出た驚きの声。
片手で慌てて口を閉じ、後輩の女の子の後ろに隠れた。
黒集りの集団は、役員階専用のエレベーターに乗り込んで行った。
あたしの心の中に、後悔という風が吹いている。
あぁ、あたしの人生……積んだな。
チーンとどこからか鐘の音が聞こえて来る。
そりゃぁ、どっかで見た顔だよねぇー ははっ
あぁ、あんな事もこんな事もして、しまいには、マーライオンなんて。あたしの出世の断たれたな。
これでも、同期の中じゃ出世頭だったのに。
イチゴ牛乳片手に持って屋上に走った。
Oh my Got !!
大声で叫んで、イチゴ牛乳飲んだら何だかスッキリして__
あっ、でもさぁ、アッチも覚えてないとか? そうそうそうよそう。なんて都合の事をいい事を思いついた瞬間
RRRRR
見知らぬ番号から着信が鳴り響く。
「はっ、はっ、はい 牧野です」
「あれ?山田花子さんじゃなかったっけ?」
「ひ、ひ、ひ、人違いです」
慌てて電話を切れば__目の前にキラキラ王子。
「ダメ、逃がさないよ。だって俺、あんたとのキスに凄く運命感じちゃったんだから」
踵を返して逃げようとした瞬間__
パチリッ 目を覚ます。
「あぁ、良かった夢だった」
「うんっ?なにが夢?それより__早くしなきゃ、会社遅れるよ」
そう言いながら……ふわりと優しいキスが降って来た。
アハハっ、夢じゃなかった。
あのあと、結局逃げ切れなくって__あたしは今彼に囚われている。
運命のキス?いやっ、運命の酔っぱらい?


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