No.060 ニャーと鳴く あきつく
ニャー
どこかで猫が鳴いた声がした。
ゆっくりと左右に首を振る__少しずつ意識が目覚めて行く。もうじき日本の地に降りる。新しい仕事に就く前にポッカリと空いた日々。少しだけ開放感を味わいたくて東京を離れ横浜で過ごす事に決めた。
馴染みのBarのマスターと軽口を叩き合い酒を呑む。
カラン 氷が解ける音が鳴る
ゆったりと静かな時が流れて、心地よい空間に俺は漂う。
静寂を破るように「あきらーーー」俺を呼ぶ声がする。そっと見てみれば__美作の社章を付けた女が俺の名を呼んでた。
知り合いか?訝し気に見れば……Barのマスターが、ゴメンと言う風に片手を上げながら
「お決まりなんだ。なんでもアキラに置いてかれちゃったみたいでね。これで締めです。で声が出ちゃうみたいでね。まぁ、そんなに大きな声でもないし、それに__あの子、凄くいい子でね」
失恋かぁー そりゃ辛いよな__頑張れよ。なんて思いながらマスターの話しを聞いていた。
次の日も彼女に会った。やっぱり締めの言葉は 「あきらーー」だった。
次の次の日も彼女に会った。河岸を変えても彼女に会った。月曜日から金曜日まで彼女に会った。
金曜の夜、哀しそうに呼ぶ「あきらーー」の声に思わず「はーい」と返事を返していた。
朝まで二人で呑んだ。酔っぱらいの彼女の名前は、つくしと言った。
つくしは、俺の頬を両手で愛おし気に包み込み「あきら、大好—き」そう言ってチュッと唇にキスをした。
百戦錬磨の筈の俺が__なんともまぁ不思議な事にそのキスにノックアウトされたんだ。
左手を天高く上げタクシーを止めたつくしは、「あきら。お家帰るよ」嬉しそうにそう言って、俺の手首を掴んで車に押し込んだ。
ベッドに押し倒されたと思ったら、俺の胸にゴロゴロと猫のように甘えながら。
「あきら、大好—き」
そう呟きながら……スヤスヤと寝息をたてていた。
「ぷっ、なんなんだ」
あんまりにも可愛くて、俺もつくしの寝息に合わせて眠った。
朝起きたつくしは、心底驚いた顔をして
「ど、ど、どちら様でしょうか?」
なんて聞いてきた。
「っん?あきらだよ」
零れてしまいそうになるくらい大きく瞳を見開いて
「あ、き、ら?」
「そう、あきら」
「なんでココにいるの?」
「君が俺を拾ったから」
パチクリと目を瞬かせて、黒目が上を見た。暫く無言の時間が続いたあとに__ハッとした顔をして
「ひゃぁーーっ」
声を上げたその仕草が可愛くて可愛くて両手で頬を包み込み唇にキスをした。
その日から、俺はつくしの家に住み着いた。
とは言え、休みは限られている。でも一緒に居たくて堪らない。
つくしは、美作の支社社員だ。ハハッ、ならば美作商事専務の特権を充分に使わせてもらおうと算段をたてた。
今晩つくしに全てを話して、来週から一緒に来てもらおうと__と考えていたら
RRRRRRRR
出てみれば、結構な一大事。ハァッ、取りあえずとメモ書き残してつくしの家を後にした。
思いの外に時間がかかって__つくしに会いにいけないまま一週間過ぎて
で、今日だ。もうじきココにつくしがやってくる。
突然消えて怒ってるかな?
それともあれは__全部夢だと思ってるかな?
それとも__いきなり本社勤務なんて怒ってるかな?
色んな事がグルグルと頭を過る。
願わくば__この胸ポケットに入ってるものが無駄になりません様にと願う。
ガチャッ
ドアが開けられる。
「美作専務、こちらが今日から美作専務の下で働いてもらいます牧野つくしさんです」
クルリと椅子を回転させて君をみれば
君の大きな瞳が零れそうなほどに大きく見開かれた。
*-*-*-*-*-*-*
ひと月後、つくしの実家に挨拶に伺ってアキラに会ってきた。
アキラは、尻尾をピーンとあげながら俺に近づいてゴロゴロと喉をならしながらお腹を見せてくれた。
瞬間__「合格っ」
つくしの両親が小さく呟いた。
つくしが微笑み
ニャー
アキラが一声鳴いた。
ゴロニャーンと甘えよう


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