No.062 ったくなぁ 司つく
世界中で一番可愛い女が笑ってる。
雑誌に目を通すふりしながら盗み見る。
うーーん やっぱり可愛いよなぁ。俺様の目には狂いは、ない。なんて悦に入って思わず笑いが零れそうになる。
だが、この糞不味いコーヒーは頂けねぇもんだ。
っつぅか……俺、久しぶりのオフだ。なんでココでこんな風にお前を盗み見てなきゃいけないんだ。
「お替わりいかがですか?」
入れ替わり立ち替わり聞かれて五月蝿くて仕方ない。
俺の貴重な時間__こんな所で過ぎ去っていいのか?
なんなら、この店今直ぐにでも道明寺の傘下にするか?で、牧野を拉致るか__なんて事が頭を過る。
いや、いやいや__そんな事やったら後が大変だ。どんだけ大目玉食らう事かだ。下手すりゃ、下手しなくても暫くは口さえ聞かなくなるだろう。
くだらない事を逡巡してる間に__牧野が消えていた。
あいつどこ行った?キョロキョロ辺りを見回してもいやしない。
マジか? その瞬間に鳴るスマホ__
《 いつもの所にいるね 》
ラインが入って来る。
慌てて店を出て、牧野が待ってる場所に急げば__
っうん? なんだありゃ。
牧野の周りを男がウロチョロしてる。あの男、さっき店にも居たぞ。知らず知らずに眉間に皺が寄る。
ピロリーン
《 同じ職場の子に捕まった。もうちょっと待ってて。絶対、声掛けないでよ 》
あんっ?
もうちょっと待ってて?
声掛けないでよ?
いやいや、あり得ないよな?
牧野の前で喋ってるのは男だよな。
で、もって俺は彼氏って奴だよな?
うん。間違ってない。なのにこの状態は、どう考えても可笑しいだろよ。
やっぱり声を掛けるぞと前を向いた瞬間__牧野が、男が、消えていた。
いや、牧野が自転車を押してる男と帰って行く。
どう言う事だ?
「オイッ」
大きな声で呼んだ。
自転車の男が俺を振り向いた。牧野は振り向きもしないで前を歩いて行く。「オイッ、牧野」堪らなくなってもう一度呼んだ。聞こえない振りを続けてるのか振り向きもしないで前を歩いて行く。
なんでだ。
「オイッ」
そう叫んだ瞬間
「ふわぁーーい」
隣りから情けない声で返事をしてくる。
横を見れば、ムニャムニャと幸せそうな顔して寝てやがる。
俺が見たのは夢……所々本当の嫌な夢だった。
なんだか頭にきて、パチッと目が覚めて眠れなくなった。
なんともまぁ、幸せそうに眠るつくしを見ながらギュッと鼻を摘んだ。
「ムグッ…ググっ…ムムムっ」
コイツばかりは寝てても俺を飽きさせない。すげぇな。
つくしのバイト先に何度も何度も足繁く通ったのは本当だ。チラチラ見ながらつくしを待った。
働いてるつくしを見るのは、中々楽しかった。
俺との付き合いを隠したがってのも本当だ。これはコイツが社会人になっても続いたっけな。
その度にモヤモヤMAXだった。ったく、色気もなんもねぇ癖にコイツもてるんだよなーー。
俺が嫌がるの知ってるもんだから、他の男と2人きりになるなんていうのは、実のところ無かったが……俺の知らない奴らに囲まれて俺にしらんぷりしながら帰っていった事__あったよな。
今なら解る。下手に騒がれたくなかったコイツの気持ちが。
でも……俺あん時傷ついたんだよな。コイツに文句いえば「仕方ないじゃん。ほらっ、変に騒がれても面倒だしさ」なんて事をいけしゃあしゃあと言ってたな。
なんだかやっぱり頭にきて、もう一度鼻をつまんだ。
「グハッ…ハハッ」
つくしが、ガバッと飛び起きて
「な、な、なにぃっ?」
俺をジロリと睨んだ。いやっ睨みたいのは俺だ
「ちょっ、ちょっと、何?もしかして、また夢?今度は何バージョンよ」
「……」
「もぉ、くだらない夢見てないの。明日忙しいんだから眠り妨げないの」
「くだらくねぇよ。責任取れ」
「もう、夢まで責任とれないっつぅーの。ったく。はいはいっ」
ブツブツ言いながらも……俺の唇にチュッと唇を触れる。
「じゃぁ、お休み」
愛する女は、深い眠りに帰っていく。俺は、唇の感触に__幸せとそんでもってムラムラと__余計眠れなくなった。
結婚して10年近く経つ。なのに、未だにコイツに囚われてる。
あぁ、なんつぅーことない夢でも激しく嫉妬するぐらいな。
ったくなぁー
ギュッとつくしを抱き締めた。
惚れて惚れて惚れまくる


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