イノセント 40 司つく
自分のものだと主張するようにつくしをスッポリと抱き締め司は眠る。
司の身体は、他の女を欲しなくなっている。それどころか触れられることさえ苦痛になっている。なのに、つくしの身体を壊れる程に抱き潰す。
つくしの身体は、一から自分で作り上げた身体の筈なのに、司にとって玩具でしか無い筈なのに、つくしの全てに囚われている。
ひんやりと吸い付く様な白い肌に、黒い大きな瞳に溺れて 溺れて 溺れているのだ。
空が白み始める頃、目を覚ましたつくしは重い身体を引きずるように振り向きもせず部屋を出て行く。
つくしには司の行動が理解出来ないでいる。いいや、司の行動だけではなく自分自身の行動さえも理解出来ていない。この一年でつくしを取り巻く環境は随分と変化を遂げた。雅哉と千里の婚約によって新和は毛受という後ろ盾を得た。毛受と道明寺HDが刺し違える覚悟でも無い限り新和を陥れる事など無理な状態になっている。それだけではない。立川と道明寺HDで交わされたつくしの出向社員としての契約自体も今では用を足さないものになっている。つくしの全てを求めた司が立川からの出向という形ではなく正式に道明寺HDの社員としてつくしと雇用契約を結んでいたのだ。
つくしを縛っていた柵は綺麗さっぱり消滅していた。現実問題はさておき、逃げようと思えばいつでも逃げれる状態に今のつくしは置かれている。否、逃げなくとも司の意のままに抱かれる必要は無いのだ。
なのに……つくしは司の傍に居続け抱かれ続けている。憎んでいるのに、許さないと誓った筈なのに。
時折つくしは、司の中に道明寺を感じてしまう。次の瞬間、目の前の人間は自分の愛した道明寺ではないと思い知り深く傷ついたとしても……その場に囚われて動けないでいる。
二人の思いは交差してすれ違う。
*-*-*-*-*-*
デスクの上の電話がなり響く。
受話器をとれば、総務部長からの電話だった。
『牧野さん、ちょっとすみませんが受付までお越し頂けませんでしょうか?』
『あっ、はい__どうされました?』
受話器の向こうから
『あぁ、もう、あなた邪魔。はい。そのまま貸して頂戴』
『ですが。アポイントメントがございません事には』
『……だから、大河原滋。あっ、周防滋だって言ってるでしょ。それに司に会いたいって言ってる訳じゃなくって、牧野つくしさんに会いたいって言ってるだけでしょ』
『ですが__』
『もう、あんまり五月蝿い事言ってると取引停止にしてもらうよ。って、それつくしに?つくしぃーー聞こえてる、受付まで早く早く』
受話器の向こうの会話が全部漏れ聞こえてくる。あまりにも変わっていなくて思わず笑いが零れてしまった。
司と大迫は会議室に入っている。出て来るまでにはまだ時間がある筈だ。
それに__あと10分程で休憩時間だ。
「杉下室長、受付に周防の奥様がお見えになられている様なので__少し席を外しても宜しいでしょうか?」
「周防の奥様がですが?」
「はい。アポイントはなくていらっしゃるのですが__」
いくつかのやり取りの後、そのまま休憩に入ってよいとの返事を貰いつくしはロビーに急いだ。
チーン エレベーターが開いた瞬間
「つくしーーーーー」
9年の歳月は、ほんの少しだけ滋を大人の女性に変えていてドーンとつくしにタックルして来る事はなかったが
嬉しそうに満面に笑みを称え大きな声で名前を呼びながら手を振ってつくしに向ってきた。
フワリッ、滋の両手がつくしの肩を抱き締めて次の瞬間
「会いたかった。会いたかった。っすん。つくしに会いたかった」
ワンワン泣き出した。
「滋さん……あたしも会いたかった」
滋の秘書なのだろか
「滋様、お部屋を取らせて頂いておりますのでお車の方に」
声を掛けられ促される。
「受付さん、ここんちの社長につくし借りるって伝言入れといて」
そんな言葉を一つ残してから滋は、つくしの手首を痛い程にガシッと掴んで歩き出した。
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