イノセント 41 司つく
9年ぶりに会うと言うのに__逃げるように去ったというのに、目の前にいる気の良い友人は嬉しそうにニコニコと笑ってつくしを見ている。
「滋さん、ごめんね」
「ストーーップ。そう言う話しは無し無し。それより、さっき桜子にも連絡したからもうちょっとしたらやって来ると思うよ」
滋はつくしとの会わなかった9年間の空白を埋める様に色々な話しをし始めた。
「あっ、先ずは自己紹介。大河原滋あらため周防滋になりました」
「おめでとう。雑誌で読んだよ。素敵な旦那様だね」
「うふふっ、でしょ。でしょ。見っけもんよね〜 フランスの大学で一緒だったんだ。なんと驚くなかれ、類君がキューピットだったりするのよ」
「花沢類が?」
「ビックリでしょ」
つくしはコクンコクンと頷いた。
「で、さっきダーリンの所に挨拶に来た類君につくしのこと聞いて慌てて来ちゃった」
ペロッと舌を出す。
料理が運ばれ程なくして桜子が部屋に入ってきた。
「せ、せ、先輩……お元気でしたか?」
「桜子__ごめんね」
「本当ですよ。ずっとお待ちしてたんですからね」
楽しい時間が過ぎて行く。つくしがチラッと時計を見れば
「金時に言ってダーリンから道明寺HDには連絡とってもらったから少しくらい遅れても大丈夫だよ」
「それより、先輩、その時計道明寺さんからのプレゼントですわよね?」
「…あっ、うん」
「おぉー、って事は__司、ようやく思い出したんだよね?」
「__良かったですわ」
二人の声を聞きながら、つくしは無意識に親指の爪を噛んだ。
「……あっ、あのね」
つくしが言葉を発しようとしたその瞬間
「失礼致します」
襖の向こうから中居の声がかかりデザートが運ばれて来る。〝あいつはあたしを思い出してなんかいないよ〟言おうと思ったのに、そう言えなくて呑み込んだ。
「うんうん…そうだよね。司がつくしの事忘れたままのワケないもんね。うんっ ホント、良かったねつくし」
「最愛の人を思い出さないわけないですものね」
桜子と滋さんが涙ぐんで話している言葉を聞きながら__つくしの心は宙ぶらりんに浮いていく。ブラブラブラブラ浮いていく。
同時に、何故?何故?何故がつくしの心に襲って来る。
何故あたしだけを忘れたの?
なぜこんなに近くにいるの思い出さないの?
あたしは、あたしはここにいるよ。
傷口がパックリと開き悲しみがつくしを包み込む。
「そう言えば、つくし立川設計事務所で働いてたって言ってたよね。やっぱりその関係で再会したの?それで記憶が戻ったなんて__ロマンチックだよね」
「記憶が戻った道明寺さん__益々先輩にご執心なんじゃありませんこと?」
「ねぇーー」
二人の会話につくしは曖昧に笑った。
〝あたしは道明寺社長の性処理玩具だよ〟そう二人に告げたらどんな顔をするのだろう?そんな事を思いながら。
「今度はさ、司も類君もニッシーもあきら君も誘ってさ皆で朝まで呑もうよ。ねっ。あっ、その前にダーリンも紹介いしたいし。あぁ、俄然忙しいね〜。うーーんで、でもでも、もう楽しみぃー」
「そうですわね。そうだ先輩、今度うちのサロンにも是非お越しになって下さいね」
「うん。ありがとう」
「そうだそうだ。電話番号とメアド教えてよ」
「あっ、うん」
鞄の中からスマホを取り出せば夥しい数の履歴が残っている。画面を見つめた瞬間カタカタとスマホが揺れた。慌てて画面をタップして出れば電話の向こうからは大迫の声がする。
『牧野さん、今どちらでいらっしゃいますか?』
『澤井におりますが__』
『直ぐに迎えの車を出しますのでお戻り頂けますようお願い致します』
大迫は用件だけを告げ電話を切った。つくしは、桜子と滋に振り向き
「急ぎの仕事が出来たみたいで直ぐに迎えの車が来るっていうの__なんだかゴメンね」
「うぅうん。突然押し掛けちゃったもんね。今度はちゃんとアポとって行くね。ねっ桜子」
「えぇ、またお伺いさせて頂きますわ」
つくしは二人に向け頬の横で手を振り車に乗り込んだ。
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