No.096 一日の終わりに byこ茶子さま
Special Thanks 君を愛するために~花より男子二次小説~ こ茶子さま
一日の終わり
あんたと過ごす時間が
あたしにとって一番の
明日への活力
「へぇ?じゃあ、一緒に住む前はあんだけすったもんだしてたくせに、司とはあんがい生活習慣でぶつかりあったりとかしてないんだ?」
「…まあ」
「どちらかと言うと、道明寺さんの方が先輩に合わせてるんでしょうねぇ」
道明寺は仕事の付き合いで、飲んで帰るから遅くなるというので、滋さんや桜子と久しぶりに待ち合わせた週末。
最近、桜子がお気に入りのバーテンダーがいるとかで訪れた、隠れ屋的なバーのカウンター。
女三人並んで、品定めするような男の人たちの視線を楽しんで、滋さんと桜子が含み笑う。
あたしはといえば、自分が見られているわけじゃないってわかってるけど、どうにも落ち着かない気持ちでグラスを傾ける。
「あ、美味しい」
あたしの右隣で飲んでいた滋さんが、いま空にしたばかりのお酒のグラスを覗き込んでニコニコしている。
「へぇ、辛口だけど口にイヤな苦味が残らなくて、凄くいいね。まろやかになってる。最近、マティーニレシピでいろんなバージョン飲んでるけど、このギブソンってただオリーブをパールオニオンに変えただけじゃないんだ?」
さっき少しだけ味見にと、匂いを嗅がせてもらったけど、匂いだけで酔っ払いそうな度の強いお酒で、とてもじゃないけどあたしには無理だった。
…これでけっこう滋さんもお酒強いんだものね。
「マティーニはステアですけど、ギブソンはシェイクしてますからね。……そう言えば、ギブソンのお酒言葉、ご存知ですか?」
「なになに?つくし、知ってる?」
滋さんがあたしへと目で尋ねてくるけど、お酒に詳しくないあたしが知ってるはずがない。
あたしも降参して首を横に振ると、悪戯っぽい笑みを浮かべた桜子が教えてくれる。
「嫉妬」
「え~?」
「嫉妬?」
「そう、嫉妬…ジェラシーですね」
「「へぇ!!」」
そんな意味合いがあるのかと、滋さんが頼んだ二杯目のグラスをマジマジと眺める。
見た目にも綺麗なお酒だけど、カクテルのお酒言葉ってロマンチックなイメージがあったのに意外。
「先輩は嫉妬したりなさらないんですか?」
「なによ、それ、唐突に。嫉妬…って、誰によ?」
「誰にって、もちろん、道明寺さんに群がる女性たちにですよ」
「え~、そりゃ、しないでしょ。どう見たって、司はつくしにメロメロだもん」
滋さんが横合いから割り込んで、うんうんと一人勝手に納得してしまっている。
「まあ、道明寺さんが先輩一筋なのは傍から見れば誰だってわかりますけど、いくら恋人が自分を愛してるってわかっていても、他の女に色目を使われて平気な女性はいません」
「そうだろうけど……つくし?」
話を振られて、曖昧に首を傾げる。
だってさ、なんて答えりゃいいわけ?
桜子の言うとおり、道明寺があたしのことだけを一途に好いてくれてることはあたしだって十分わかってる。
あいつはたとえ忙しくても、その中で十分にあたしにその気持ちを伝える努力をしてくれてるし、何よりあたしを見るその目や嬉しそうな顔を見れば疑う余地もない。
でもね…でもなんだよね。
「………ハァ」
「あれ?もしかして、なんかあるの?」
「あるわけじゃないけど、……あいつってああいう男じゃない?」
ああいう男…で、今度は桜子と滋さんが顔を見合わせた。
お金があって、家柄や名誉、そればかりか美貌やスタイルまで完璧で、誰が見たって超一流の男。
責任ある立場や地位を担ってバリバリに仕事をこなして、ガキの頃のあいつが嘘のようにイイ男になった。
片やあたしなんて、ごく普通のOLでさ。
成長したあいつとは真逆に、あたしはいつまでたってもごく平凡な女で、誰が見たって釣り合いが取れてない二人だ。
そんなあたしのどこがいったい良くて、あいつはあたしに好きだ好きだって言ってくれるのか、未だに良くわからない。
…今日だって、接待の相手って、同年代なわけじゃないけどまだわりと若い美人の女社長なんだよね。
しかも、どちらかといえば女嫌いなあいつが、珍しく認めているというか、憧れてるとかいう人だったり。
もちろん、個人的な意味ではないんだろうけど。
あいつが帰国した当初、あまりに様変わりしたあいつの様子に、気後れしてしばらく変な態度をとってしまったことは記憶に新しい。
「ま、先輩にもいろいろあるってことですかね」
「…恋愛って、どんなに上手くいってても、不安がないってないんだよね」
「そうだね」
なんだかんだと話は流れて、滋さんが最近狙ってる某有名レストランのハンサムなパティシエとデートにこぎ着けた話やら、ついこの間35番目の彼氏と別れたばかりの桜子が、先日出席した慈善パーティで知り合った青年実業家といい感じになってる話とか、お互いの近況で大いに盛り上がって、女子会を終えた。
*****
「……お、あんがい早かったな」
「あれ?」
誰もいないと思っていた居間に道明寺がいて、驚かされる。
「もう帰ってたんだ?」
「おう」
一度自分のクローゼットにコートをかけて、キッチンでササッとマグカップにミルクティを二つ作って、道明寺の座っているソファの横に腰を下ろす。
「はい」
「お、サンキュー…って、コーヒーじゃねぇのかよ」
「もう真夜中じゃない。眠れなくなったらどうすんのよ」
「一運動もすれば疲れて、寝れるようになんだろ…って、いてぇだろ、殴るな」
「もうっ!すぐそういう変な冗談言うんだから」
頭を小突いてやろうとした手を掴まれて、そのまま引き倒されるようにして抱き込まれる。
「…冗談じゃねぇよ」
「なお、悪い」
その間も道明寺は膝の上のタブレットからほとんど目を離さない。
仕事をしているみたいじゃないけど、娯楽本を読んでるという感じでもない。
「なに?」
「さっきまで一緒してた会社の社長が執筆したっていう経済論」
「へぇ!」
聞くと、今日の接待で一緒に飲みに行った…例の女社長は、もともと大学の研究室にいたIT系の研究者で、友人数人と起業して、業界内にその人ありと言われるようになった人物だとか。
道明寺にしては珍しく饒舌にその人のことを話しているから、よほど感銘を受けたんだろうな。
…ヤキモチを妬く余地なんて全然ないんだよね。
道明寺の中では相手の性別なんて全く念頭にないのは明らかで…。
それなのに、って思ってしまうのは、単にあたしのワガママと…コンプレックスのせい。
あたしにもっと飛び抜けた才能とか能力とかあったら、それこそその社長さんのような人だったら、こうして話をする道明寺に的確なアドバイスとか受け答えとか、きっともっと対等な話をしてあげることができたんだろうな、って。
ただ、うんうん、頷いてるだけじゃなくね。
「あれでまだ37才だって言うんだからな……一から新しいことを作り出すってエネルギーはすげぇよ。俺らみたいな所帯ばっかデカくて、旧体質の企業じゃとてもできないことを、1年2年というスパンで飛躍的に成し遂げてる」
「ふぅん」
キラキラした目で愉快そうに話す道明寺の話に相槌を打ちながら、話の内容じゃなく彼の声の調子に耳を傾けていた。
正直、こいつの話す専門的な話なんて半分も理解できていない。
でも、道明寺がどれだけ真剣に仕事に向き合っていて、そこに生きがいとやり甲斐を感じているのか、いつもその声の調子に感じ取ることができるから。
ふと気が付けば、優しい目で道明寺がタブレットではなく、あたしをじぃっと見ていることに気がついた。
「なに?」
「………そろそろ寝るか」
「へ?まだ読み終わってないじゃん。ま…明日も仕事あるんだろうから、早く寝た方がいいとは思うけどさ」
「明日は午後出」
「そうなんだ?」
じゃあ、なおさら読んじゃいたいんじゃないの?
それだけ熱心に話してるくらいだしねぇ。
飲んで帰って疲れているだろうに、今日くらいさっさと寝ちゃえばいいのに、仕事の本でもないのにいつまでも読んでるし。
「本は…まあ、読みたかったから読んでたけど、お前を待ってたんだよ」
「…あたしをって、どうせ待つなら寝て待ってればいいし、別に待ってなくてもSPさんたちもついててくれるんだから心配しなくても平気だよ?」
「じゃなくて、お前と話したかったからさ。…お前にとっては全然面白くもないツマンネー話だろうけど、俺があの人の話を聞いて、ウチも負けてらんねぇとか、もっと頑張んなきゃなんねぇとか、思ったことをお前に話して…聞いてもらいたかった。お前に話すってことが俺にとって大事で、パワーが湧いてくることなんだよ」
「道明寺」
嬉しそうな綺麗な顔が徐々に近づいてきて、唇づけを落とされるのに目を瞑って待つ。
優しい柔らかな感触。
激しくて、気性の荒々しい男なのに、こいつのキスはいつも優しい。
熱くて甘くて…あたしに触れる手と同じように、いつもあたしを壊れ物に触れるように大切に触れて、愛してると伝えてくれる。
「………ベッド行くぞ」
ねぇねぇ、その心教えてあげなよ
Reverse count 4Colorful Story 応援してね♪
- 関連記事