No.069 いいよね 総つく
「なっ、なっ」
あたしは、さっきからずっと口説かれている。目の前の黒髪サラサラ軽妙洒脱男に。
っん?軽妙洒脱じゃないか__充分に俗っぽいもんなぁー。いやいや、俗っぽいのに俗っぽくみえないあたり軽妙洒脱?
「なぁ、さっきからすげぇ、ブツブツ言ってるけどお前ちゃんと聞いてるか?」
サラリと前髪なんて掻き上げながら流し目をしてくる。何故にあたしに流し目なんて思ったら、その流し目の先はお婆さんと小ちゃな女の子。あははっ、凄いねあんた。
シレェッーーと見れば
「世の中の女性には親切にしないとな」
ニッコリ微笑みしたり顔で言う。オイオイ、だったらあたしにも親切にしといてよ。
「牧野は、俺の舎弟だ」
舎弟?舎弟ときたよ。ビックリしたあたしの口は、あんぐりと開く。
しかも舎弟と宣ったその口で「で、どうだ?」ときたもんだ。
いやいや、どうだはないよね? 第一舎弟って舎弟ってあたし弟じゃないし、いやいや、その前にあたし女だし。
って、妹分だと舎妹? アハハッ そんな言葉ないか。第一 舎が男の意味だから言葉として成り立たないか。そうなるとココで一番当てはまる言葉は何なんだろう?
「で、返事は?」
で、返事って?舎弟呼ばわりされて何に返事しろと?
「まぁ、なんだお前にとって悪いはなしじゃないと思う」
うん? どこをどうとって悪い話しじゃないと言いきれる?
全くもって意味が解らない。
「あのさ、あたし今日はもう帰るよ」
「帰るとかあり得ないだろよ?」
洒脱男はなにやらモゴモゴと言っている。
いやぁー、あり得るよね。うんうん。
「あのさぁ、あたし__頭痛くなって来た」
「風邪か??」
「うーーん。風邪とか何とかよりも、西門さんの言ってる事の意味が解んなくって__ごめん」
あたしの言葉に目の前の洒脱男は、怪訝に眉を顰めながら
「意味?そのままんだろうよ?俺の嫁になれって言ってるの」
「やっ、それマジ意味解んないよね? っつぅか、第一西門さんは男と結婚するの?」
心底うんざりとした表情で「はっ?」と返して来る。いやいやっ、あり得ないよね?心底うんざりはあたしだよね?なのにだ
「牧野、流石の俺も男とは結婚しない」
なんだか可哀想な目をしてあたしを見る。いやいや、だからさぁ舎弟って言うのはそもそもが弟分を差す言葉であって
「それともお前、男になったのか?」
「ちょっ、なんで男になるのよ」
「いやっ、勤労処女こじらせて男になっちまったのかと__一瞬マジで心配した」
どこの世界にそんなんで性別変わる人間がいるのよ。ったく__人のか顔見りゃ勤労処女、処女、五月蝿いちゅーうの。
「あのさぁ、一度言っとこうと思ってたんだけど、勤労処女、処女余計なお世話だよね?」
「余計なお世話じゃねぇよ。大問題だろうが」
「あたしが処女かそうじゃないかが何で西門さんに関係するのよ?」
あたしの素朴な疑問に「はぁあ~!大有りだろうよ。なんのために俺が我慢してんだ」なんてことを激昂して答えてくる。
答えて……くる
えっ?
えっ?
えっ?
我慢?
我慢?
我慢って今言った?
「なんで……我慢?」
「はぁあー? 折角だからバージンロードまっさらで歩かせてやるって約束しただろうよ」
や、く、そく?
約束なんかしたっけ? 腕を組んで考えた。考えて考えて考えた。だけどだ__全くもって思い当たらなくて首を捻った。
「あのぉー、それはいつ?」
「去年の花見の時だ!」
花見?花見って__しこたま呑んで騒いで記憶紛失したあの晩を思い出した。
「そ、それって酔っぱらた時のことだよね?」
「あぁ、お前がぶっ倒れた時のな」
そうそう、あわや急性アルコール中毒?の世界だったやつよね。まぁそれから頭が上がんなくなって西門さんの頼まれ事とか聞いてるんだけどね。
「って、あん時って__あたしそんな約束覚えてないよ」
「マジか? じゃぁ、俺となんだそのキスしたとかもか?」
「えぇぇぇえぇぇーーーーーーーーー」
青天の霹靂まさにだ。
「じゃぁ、お前今までなんで毎週俺の誘いにのって来た?」
それは、ホラッ、最初は見合い話し断るのに付き合えとかなんとか頼まれて、次はそのお礼だと食事に誘われて、パーティーの同伴だ、茶会だと女避けだと言われて__って。そうよそう、西門さんが頼んできたりしてたんじゃない。
「だ、だ、だって__頼まれたから」
って、西門さん__もので釣ったよね?
「頼まれたらお前は誰にでも同じことをやるのか?」
いやっ、それは友達としてですね……なんて言葉出かかったけどココで言ったら怒られる気がして口を噤んだ。口を噤んだのがいけなかった。
「なっ、そうだろ。やんないよな」
勢いに任せて思わずコクンと頷いていた。いや、西門さんの瞳に見つめられて__逆らえなかった。
コクンと頷いたあたしに洒脱男はニコニコとご機嫌良く笑いながら
「だろだろ。なっ、じゃ 決まりってことで」
で、金屏風の前で婚約記者会見だ。
ははっ、と思うけれど__西門さんの瞳に見つめられると「イヤ」だと言えないんだから仕方ない。
まぁ、こんな人生もありかな?
いやっ、どうなんだろうか?
ははっ ははっ ははっ……
いいのか?いいよね


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