明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

No.070 雪花弁 


「おぉっ~寒い」
はぁぁっーー
合わせた両手に息を吹きかけながら小さく呟いた。

牧野つくし27才。大手出版社に勤めて5年になる。
日々働く女で頑張っている。そんなつくし__なんでこんな辺鄙な片田舎に居るかと言うと……新しい原稿を書いて欲しいとこの5年筆を断っている作家に会いに来た帰りなのだ。彼の作り出す世界が言葉が好きだった。この世界に入る切っ掛けは作家の書いた本だった。同じ世界にいればいつか会えるかもしれないそう思ってこの世界に入った。この村にいるとの情報を得て、使っていなかったお休みを取れるだけとって、この村に電車とバスを乗り継いでやって来たのだ。

片田舎に似合わないような洒落た洋館だった。洋館に良く似合う美しい青年があらわれて「先生はこちらにはいらっしゃいません」冷たく言い放ちつくしの鼻先でドアを閉めたのだ。近くに宿は無かったので、最寄りの村にたった一軒あった宿からバスに30分程揺られて毎日毎日通っているのだ。今日で二十日目。
流石に明日は、会社に出ないと自分の席が無くなる。

「はぁぁっーーー」
凍える手に息を吐きかける。最後の日だから__いつもよりも沢山の時間、ここにこうして立っている。しつこくし過ぎて嫌われたくないからドアのベルを鳴らすのは一日一回と決めている。次のバスの時間まで近くのベンチに腰掛けて本を読み、時折洋館を見上げることに止めているのだ。

「また降って来たんだ」
視線を灰色の空に向け空を見る。灰色の空を彩るように空から花びらの様な真っ白い雪が降って来る。一枚、二枚、ヒラヒラと沢山の白い花びらが空を舞ってくる。
「先生の書く世界みたい」うっとりと見惚れながら手を伸ばす。キャメル色の手袋に真っ白い雪がそっと落ちては消える。どのくらいそうしていただろう。手の熱だけでは消えなくなった雪が手に、肩に、頭上に白く積もる。
つくしの腕時計のアラームが鳴る。最終バスの時間を報せるアラームだ。

「打ち止めってことか……」ポツリと呟いてからヨシっとばかりにつくしは大きく手を振って洋館をあとにした。

雪が降る中を歩く。花弁雪はドンドンと積もって行く。バス停までの10分ほどの間で雪はドンドンと激しさを増して行く。バス停に着いた時には前が見えない程に吹雪いていた。

「ふぅっー」
息を吐きバス亭の小屋の中で雪を払った。鞄の中から幾度も読んだ本を出す。1ページ1ページ大切に

いつもなら15分程待てば来るバスが彼此れ30分待っているのだが来ない。
「雪で遅れてるのかな?」最終のバスの時刻をもう一度確認するために、時刻表を目でなぞった。「あれっ」つくしは声を出してポケットからスマホを取り出した。
「あちゃーーー今日って祭日じゃん」思わず大きな声を出していた。朝確認した運行時間は平日のもので……時計と睨めっこすれば、まだ1時間程先だ。
「うーーん、もったいないことしちゃったな」なんて事を暢気に呟いたあと、間違えてしまったものは仕方ないとばかりにもう一度ベンチに腰掛けて読みさしの本を読む。物語が佳境に入って行く。何度読んでもドキドキと胸が高鳴る。

小屋の外には雪が降り積もる。ヒューヒューと風が唸り声を上げている。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

眼鏡をほんの少し持ち上げながら窓辺に立って外を見る。今日も彼女が立っている。これで幾日目になるだろう?
5年ぶりにやっと取れた長い休みだった。あきらの父が急に倒れ、反勢力と戦う母を支えるために、休みも取らずに我武者らに働いた。あきらの父が復帰して以前と変わらずにバリバリ働ける様になってもうじき1年が経つ。ホッと息を吐く事が出来たそんなあきらに漸く訪れた休暇だった。

煩わしい出来事で休暇が遮断されないようにと、携帯電話も通じないような人里離れた別荘を選びここに来た。来てみれば__つくしが待ち受けていた様にあらわれた。なるべく誰にも煩わせられたくなくてこの場所を選んだ。使用人も以前からここを任せている別荘番の老夫婦以外には置かず、日に一度簡単な掃除と食材の用意をお願いしてあるだけだった。5年と言う歳月の疲れをとる為にただただ眠りたかったのだ。

突然、訪れたつくしが迷惑でしか無くて咄嗟に従兄弟だと嘘を吐いた。あきらの言葉につくしは、落胆した顔をして
「ご迷惑かもしれませんが明日また来ます」そう言い残して去って行った。窓の外を見れば近くのベンチに腰掛けて時折邸を見上げながら本を読むつくしがいた。それを見て最初の内は薄気味悪さを感じた。だが彼女は、一日一回しかベルを鳴らさなかった。あとは、ベンチに腰掛けながら本を読んでいた。真っ赤な装丁の彼の本。初版の本だった。
初版部数は本当に少ないものだった。それを彼女が持っている事に驚いた。ベンチに座り本を読む彼女は、まるで空想の世界と戯れているように幸せそうな顔をしていた。

毎日決まった時間に邸の前に来てベルを鳴らす。最初は迷惑にしか感じなかった彼女の来訪をいつしか心待ちにするようになった。

一言二言葉を交わすようになっていった。一週間を過ぎたあたりで

「君は、あきら先生のファンなの?」そう聞けば、待ってましたとばかりに
「あの、ここではなんなのであちらで話しません?」
そう言ったあとベンチで腰掛けて滔々と語り出した。

つくしの熱い想いを聞いた夜、彼は再び手にペンを持ち、原稿を書き始めた。雪降る夜に出会った少女と少年の恋物語。

物語が終盤にさしかかる心血注いで書いた。彼女に手渡してあげようと朝方までかかって書き上げた。彼女が来るまで少しだけ仮眠をとろうとベッドに横になった。訪れた老夫婦がつくしの対応をした。つくしは

「そうですか__残念です。どうぞ先生に宜しくお伝え下さい。それといつもの方にも」

そう言い残して邸を出ていつもの場所で本を読んだ。

雪が舞う様にふるのも気が付かないで男は滾々と眠った。パチリと目を覚ました時に目に入って来たのは、一面雪に包まれた世界だった。老夫婦は、いつものように掃除を終え帰ったあとだった。

「彼女に悪い事しちゃったな……明日渡そう」あきらは思わず呟いていた。

RRRRR 電話のベルが鳴る。
出てみれば老夫婦の夫で
「あきら様__大変申し訳ないのですが吹雪で木が倒れてしまって明日はそちらにお伺い出来そうにないのですが…」そんな言葉だった。

「大丈夫だよ」

返事を返したあと、電話の相手が

「そう言えば、あきら様のところにいらっしゃるお嬢さん、今日もお出でになられたんですが__無事お戻りになられましたかね?最終のバスも止まってしまいましたので……」

気になる言葉を呟いた。

外は吹雪だ。彼女が泊まっていると教えてくれた宿に慌てて電話をすれば、東京に帰ったと告げて来る。となれば彼女の行方は解らない。

あきらは猛吹雪の中、車を走らせた。ちょっと先も見えないような猛吹雪__慎重に車を走らせてバス小屋の前についた。中を覗いた瞬間____思わず笑いが零れた。外の状況には全く無頓着に真剣に本を読む彼女がいたのだ。

トントンッ 扉を叩いても気が付かない。ガラッと扉を開けて
「お嬢さん……これじゃバスが来てもきがつかないんじゃないんですか?」笑いを含ませ声を掛ければ、物語が佳境だったのか__ズビズビと鼻をならし目を真っ赤にしながら顔を上げ「あれっ?どうしたんですか?」素っ頓狂な事を言いながら、微笑み返してきた。

「バス、最終来ないってさ。ついでにココから先、道も不通」

「えぇぇぇーーーー どうしましょう」

目を鼻を真っ赤にしながら真剣に焦る彼女が彼は可愛くて

「俺んちに来るって言うのはどう?」そう誘った。

「そんな滅相もない」と彼女は頭をブルブルと振るう。

「滅相も何もここで一晩過ごしたら、君死んじゃうよ?お願いだから俺に目覚めの悪い思いさせないでくれないかな__それに牧野さんに渡す様に頼まれた原稿が邸にあるんだけど」

誘惑の言葉にようやっと大きく頷いて___邸の中に足を踏み入れた。

あきらは「読んで」そう言いながら原稿を手渡す。つくしは無言で受け取り一心不乱に読み出した。

真ん中のページを捲る頃には、涙で顔をクシャクシャにしていた。

全部を読み終えたつくしは、原稿を胸に抱き締めて真っすぐにあきらに見つめてお辞儀をした。

「あきら先生有り難うございます」

「……いつから?」

「初めから。そうかなって」

「じゃ、なんで?」

「先生が隠されてるのに……」

つくしは途中で言葉を途切らせて上を見上げた。あきらの腕がつくしの背中に回されていたのだ。あきらはくっすぐったい気持ちになりながらつくしを目一杯抱き締めていた。


次の瞬間......唇が重なった。



雪花弁が空に舞う日
 
 恋が生まれた。









雪が降るシンシンと……
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6 Comments

asuhana  

さとぴょんさま

実は、これ__大雪で動けなくなった交通機関での出会い。
を書いたつもりが__いつの間にか変わっていたと言うw


あれれ みたいなw


って、ふたりの間に春なんて綺麗な言葉を!
ありがとうーです

2017/01/20 (Fri) 16:35 | EDIT | REPLY |   

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2017/01/20 (Fri) 14:12 | EDIT | REPLY |   

asuhana  

yukikoさま

凄腕 ありがとうーと きっとつくしが言ってることでしょう。

雪が降る日に恋が始まれば、雪好きになりますかね〜♡

2017/01/19 (Thu) 15:47 | EDIT | REPLY |   

asuhana  

すてらさま

へぇーーー そんなオチがあるんですね。
読んでみたいかも。

あっ、ダメダメ 頼んで置いた本が届く予定なんだった。

2017/01/19 (Thu) 15:43 | EDIT | REPLY |   

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2017/01/19 (Thu) 10:05 | EDIT | REPLY |   

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2017/01/19 (Thu) 08:23 | EDIT | REPLY |   

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