baroque 40
incompatible
生まれが違えば
incompatible
相容れないと
incompatible
人がいう
泣きじゃくるつくしをどれくらいの時間抱き締めていただろう。
「インディゴちゃん、あたし、あたし……」
「つくし心配せんでも、アタシはあんたが好きとぉ。どんなにバカでもあんたが好きとぉよ」
「……っす、っすん…インディゴちゃん……本当に?本当に嫌いにならない?」
「嫌いになんかならんと……もうっ、泣かんよ。あんたに涙は似合わんと.....」
インディゴちゃんの言葉につくしは「ゴメンね。インディゴちゃんゴメンね」何度も、何度も、謝る。
インディゴちゃんは、左右に首を振り
「謝って欲しいわけじゃなかよ。いけん事したってちゃんと解って欲しいんよ。幾らご大層な理由を並べようがなにしようが裏切りは裏切りだってことをきちんと解って欲しいんよ」
つくしは口をギュッと噛み締め首を振る__
「つくしの強情っぱりは、小ちゃな時から変わらんと」
愛おし気につくしの背中をトントンと小さく叩きながらやれやれと言う風情で微笑んだ。
「つくし……雪乃さんの話しは本当に本当に受け入れてもよかと?」
インディゴちゃんの言葉につくしはコクンと小さく頷く。
「……あたしね……雪乃さんと取引をしたの」
つくしが語ったのは、養女になる代わりに薫との婚約を一旦白紙に戻すことだった。
「……あんた、本当にそれでよかと?」
「薫から離れるにはそれしかないもん」
「それはそうかも知れんけど、婚約を白紙に戻すってことは、一大事なんよ?そこわかっとる?公に発表はせんでも皆が知っとるんよ?下手したら筒井は宝珠を敵にまわすんよ」
「わかってる。だけどそれしか方法はなかったから……」
それだけ言うと、つくしは下唇を強く噛み締めた。
つくしの脳裏にはあの日の事が唐突に蘇って来る。
それは、別につくしに向けられたワケではない言葉だった。同じ学び舎の人間に対し何か仕掛けたり嫌味をいうほど彼女等は愚かではなかった。第一彼女等の会話をつくしが聞いていたのだと言う事も露知らない筈だ。
「ねぇ、大学に行ったらやっぱり玉の輿狙いで白泉にいらしゃっる方がいるのかしら?」
「大学から来る方って半数以上がそうらしいわよ。白泉に通ってましたって言うとお見合いなさった時に箔がつくんですって。あとは大手企業に入るのに白泉ブランドは役に立つからって方もいらっしゃるみたいだけど」
「でもそれって、違うわよね。だって、もともとの生まれが違うのだから相容れれるわけがないのにね。そう思わなくって?」
「えぇ、本当よね」
「お婆様がおしゃっていらっしゃってたんだけど、大学から入ってこられた方にはそれ相応のお話しか来ないって」
「うふふっ ふふっ」
顔さえ良く覚えていないのに彼女達のその言葉や笑い声、そして息づかいまでを、つくしは今でも鮮明に覚えている。
この時偶然聞いた、生まれが違うのだから相容れない……この言葉がつくしを深く傷つけた。
あの日からつくしの心は、バロックパールのように少しずつ歪んでいったのかもしれない。


ありがとうございます♪
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