No.074 幸せ 総つく
「ゲホッ ゲホッ……」
ゾクゾクとした寒さが突如背中を襲う。
「大丈夫?」
俺の顔を覗き込む様につくしの瞳が俺を見る。〝大丈夫だ〟そう答える前にガタガタと寒気が襲って来る。
「——っずぅぅーー かなり寒い」
「これから熱が出て来るのかしら?あとの準備はやっておくから__」
「あぁ、悪いが宜しく頼む」
日の高いうちからベッドに潜り込み目を瞑る。熱が上がる前なのだろう。身体の芯が寒くて寒くてたまらない。
身体中が燃えるように熱くて目を覚ませば、心配げに俺を覗いている瞳と出会う。
「大丈夫?」
そう言いながら、つくしの小さな掌が俺の額に触れる。
「……あぁ、ひんやりして気持ちがいいなぁ」
にっこりとつくしが微笑みながら
「もう一眠りしようね」
そう言いながら立ち去ろうとする。手首を掴み
「もうちょっと、側にいてくれよ」
そう頼めばゆっくりと微笑みながらコクンッと頷いて横に座り直して、小さな小さな声で子守唄を口ずさんでくれる。
「…クッ、ガキじゃねぇよ」
「そうだね__ほらっ目瞑って」
トントンッ トントンッ
リズミカルに肩先を優しく叩く。
目を瞑り……うとうとと微睡む。
幸せな気分で微睡む。
寝苦しくて目を覚ます度につくしが横にいるのが見える。
「つくし……」
編み棒を動かしながら振り向いて
「うんっ?あっ、お水飲む?」
「あぁ」
ベッドサイドの水差しからコポコポとグラスに水を汲んで手渡してくれる。
水を呑み、汗で濡れたTシャツを着替える。
「ほらっ、ちゃんと手をあげる」
「あぁ」
甲斐甲斐しく世話をやいてくれるのが嬉しくてたまらない。風邪も悪くねぇよな__なんて思っちまう。
ったくなぁ__色男も全くもって形無しだよな。
目を瞑り微睡む。何度目の微睡みだろうか__
パタパタッと足音が聞こえてきて、障子の前でピタリッと止まって声がする。
「ととさまー」
「すぅちゃん、入っちゃダメ。それに静かにしなくちゃダメだよ」
「にぃにぃ、なんでダメなの?」
「父様は、お風邪だから母様が入っちゃ行けないって、さっき言ってたでしょ」
「だってぇーー ちょこっとだけ ちょこっとだけ ととさまに あいたいですぅ にぃにぃ おねがいですぅ」
「すぅちゃん、今日のおやつは イチゴのショートケーキだって言ってたよ」
「は~い」
「プッ」
「にぃにぃ どうしたんですか?」
「うぅん。さっ、行こう」
足音が遠ざかる音がする。
小さく笑みが零れた
スゥッーと障子が開く音がして、つくしが入ってくる。
「っん?どうした?何笑ってるの?」
「あっ、いやっ」
つくしが柔らかく笑ってから額に手を当てる
「熱、下がってきたね」
ニッコリ笑う
「櫂と菫帰って来たんだな」
「あっ、それで笑ってたの?」
「父様、ショートケーキに負けるの巻きだった」
「うふふっ、今日のおやつね。志摩さんが絶対に若宗匠のお部屋に入ろうとしますからって菫の好物用意して下さったのよ。その後はお義母様とお義父様とお二人でお泊まりに連れて行って下さるって。明後日からまた忙しくなるから早く治して下さいって」
「そう……か」
「ちょっと淋しい?」
「あぁ、ちょっとな」
「明日の夕方には帰って来るからそれ迄、ゆっくりして」
つくしに向けて手を差し出しながら
「変わりに慰めてくれ」
俺の言葉に、くすくす笑いながら手を握ってくれる。いつもなら、菫や櫂にかかりきりになるつくしが俺の側にいる。
2人がいないのは淋しいけれど、こんなのも悪くないもんだ。
「つくし……」
「はいはい、次は?」
目尻を下げながらくすくす笑う。
「じゃぁ、あいつ等が帰って来る迄、ずっと一緒にいてくれ」
俺の髪を梳きながら
「畏まり、ました。って、うふふっ 甘えん坊だね」
「そんなんじゃねぇよ」
「はいはい。じゃぁご飯食べてね」
「食わせてよ」
「もう」といいながらも一匙二匙食べさせてくれる。
こんな日も悪くない。
いや
すげぇ 幸せだな。
甘える幸せ 甘えられる幸せ


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