No.086 フォンダンショコラ by四葉さま
とろ~り とろとろフォンダンショコラ
ほろり苦くて甘~いフォンダンショコラ
バイト帰りに、コンビニで買ったフォンダンショコラ。
お得商品、30円引。
レンジでチンすりゃ、極上の味わい。
しっとりとした外側の生地と、ねっとりと熱く溶ける中のチョコレート。
スプーンですくい、舌を火傷しそうな熱さに耐えながら、一口パクリ。
一気に唾液が噴き出してきて、生地とチョコが一体となったハーモニーが奏でられる。
そのまま、鼻で息をすれば、鼻腔にまで香りが広がり、もう一口と脳が指示を出す。
うっとりとした視線をフォンダンショコラに向けながら、エロい溜息をつく恋人に、暴君の怒りも限界を超えた。
「何、恍惚とした顔してんだよ」
「ちょっと待っててって言ったでしょ!お楽しみの最中なんだから!」
「お楽しみって、テメー、その黒いのとナニする気か?」
「わけわかんない。なんの話よ」
「ナニっつったら、ナニだ!」
一人真っ赤な顔で喚き散らす司を、つくしは冷ややかな目で見ながら、二口目のフォンダンショコラを口に入れる。
「んーたまんない」
「そーゆー言葉は、俺様にだけ吐け!」
「はぁ?馬鹿じゃないの?」
つくしは、用意してあった紅茶を飲むと、また、更に目を潤ませ、ふーっと息を吐いた。
「至福の時を邪魔しないでね」
つくしは、ツンと鼻を上に向け、細めた目で司を見る。
司は、口をへの字にして黙り込んだ。
弱みがある。
つくしが司と行くの楽しみにしていた映画を、メンドクセーの一言で断ったのだ。
まさか、つくしが、前売り券を二枚購入しているとも知らず。
「映画、そんなに見てーなら、今から貸し切って・・・」
「もういい。優紀と見てきたから」
つくしは、三口目のフォンダンショコラを口に入れた。
さっきまでの甘さは何処へやら。
苦さばかりが口に残り、ぬるくなった紅茶で洗い流す。
唇を噛み締め、スンと鼻を鳴らした。
「泣くなよ」
「誰が泣くか!こんな事くらいで!」
強がる程に、小さく身を縮めるつくし。
司は、つくしの背後に移動すると、そっと抱きしめた。
「ほんと、わりぃと思ってる」
「思ってなかったら、八つ裂きにする」
「でも、お前も最初から言えよ。『チケット買ったから行くぞ!』って」
「そんな恥ずかしい事出来るか!」
強がりばかりが上手くなり、素直になれない今日この頃。
そんなつくしに気づかず、何故怒ってるのかさえ分からなかった。
司は、はーーーーーっと溜息をついた。
「恥ずかしくても、やってくれよ」
つくしの肩に顎を乗せた司は、耳元に優しく囁く。
「俺なんか、かっこわりーとこばっか見せてるだろ?」
つくしが優紀と見に行った事を司に教えたのは類。
最初は、類を誘ったらしい。
嫉妬に怒り狂った司に類は、
「怒る相手が違うだろ!」
と怒鳴った。
つくしに誘われた類は、
「俺をお前らの喧嘩に巻き込まないでくれる?」
と素っ気なく突き放した。
ソウルメイト故に、彼は厳しさを持ってつくしを諌める。
「俺なんかと行ったら、修復出来るもんも、出来なくなるよ」
ごもっとも。
そして優紀を誘って見たものの、全く気が晴れない。
辿り着いたのは、自棄酒(やけざけ)ならぬ、自棄フォンダンショコラ。
冷蔵庫の中には、今日が消費期限のフォンダンショコラがまだ三つ入っている。
造形美の極致である司が眩しくて、せめてダイエットと思い、色々我慢してきた彼女には、何ヶ月ぶりの甘い物だった。
「映画、やっぱ、行こうぜ」
「もう、いい」
「でもさ・・・」
体育座りで膝におでこを付けてしまったつくしの顔は、司から見えない。
「もう、いいから・・・ちゃんと抱っこしてて」
見る間に頸が赤く染まり、耳までその色が広がると、司の心臓もドクンドクンと激しく鳴り出す。
「し、失礼します」
変な緊張感と共に、司は、つくしを抱きしめる手に力を入れた。
ピクンと動く彼女の肩に、司までピクンと反応する。
司は、自分の長い両足の間につくしを挟み、つくしの体温を感じた。
ちょいビターな生地の中には、熱くて甘いチョコレート。
まるで、つくしは、フォンダンショコラ。
司の腕の中の彼女は、時折苦さも含みつつ、彼を虜にして離さない。
甘くてちょっぴり苦い恋の味


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