No.091 大きな愛で by Gipskräuterさま
大きな愛で 全てを包もう
大きな愛で 見守ろう
このお屋敷に嫁いで数年が経った。
お屋敷にいるときの私は、昔の牧野つくしであっては為らない。
彼に見合う立派な良き妻を演じてる…つもり。
もちろん彼といるときは別。
だって彼は『牧野つくし』を愛してくれるから。
だけど…郷に入っては郷に従えって言うじゃない?
だから私はみんなの前ではおしとやかであろうと思うのよ。
それが通じているかどうかは分からないけどね。
でもね、頑張ってはいるけど、やっぱり猫を被るのは疲れるから…。
だから…誰にも秘密の時間…は必要でしょ?
こっそり誰にも見つからないようにお屋敷を抜け出した私は、その場でお屋敷を振り返った。
うん、大丈夫!
誰も気づいてない。
私は足取りも軽やかに歩き出す。
目的地なんてないただのお散歩。
のんびりと歩き、空を眺め、道端に咲く草花を愛でる。
自分の足で自由に歩くことが出来るこの時間がこの上なく幸せで楽しい。そしてこの一時が私のエネルギーになっていく。
街に出ていろんなお店を覗いては心が弾む。
この楽しみはお屋敷には決してないものだよね。
ステキなカフェを見つければ、迷いなく扉を叩きケーキセットに舌鼓をうつ。
お屋敷で食べるものはどれも極上品。
けれどこんなお店で食べるものを美味しく感じる私は、やっぱり根っからの庶民なんだと思う。
そんなことを考えている自分がなんだか可笑しくて頬が緩んだりもする。
ケーキセットを堪能した私は、またあてもなくぶらぶらと歩き街を楽しむ。
かつてそうしていたように。
そんな時間に満足すると私の足は勝手にお屋敷へと向かっていく。
お屋敷を出たとき同様にこっそりと息を潜めながら人目を掻い潜り、何食わぬ顔をしてお屋敷を歩く。
そんな私の大事な大事な秘密の時間。
周りのみんなは知ったらどう思うんだろう?
そう考えることもしばしば。
でもたまにはいいよね?
やっぱり何にでも息抜きは大事でしょ?
屋敷からの一通のメール。
またか…。
そう思いながらも頬が緩む。
つくしが嫁いで来てからというもの、こうして時々連絡が入るようになった。
慣れない家に嫁いだつくしのほんの一時の自由な時間。
たまにはこんなのも悪くないだろう。
俺はつくしの自由な時間を尊重することにした。
当然つくしに気づかれないようにSPが張りついている。
つくしは外の空気を吸って、楽しむだけ楽しむと自然と足を屋敷に向ける。
帰る場所は俺たちの屋敷以外ない。
そう言っているようで、俺のにやける顔は止まらない。
屋敷に戻ったつくしは何事もなかったかのように振る舞う。
バレていないと思ってるところがまた可愛い。
俺が知っていると知ったらつくしはどうするんだろう?
きっと頬を真っ赤に染めて、口をパクパクさせるに違いない。
そんな顔を見てみたいと思う。
けどそれはつくしの楽しみを奪うことになる。
だから俺は黙って見守ることにした。
いつかありのままのつくしでいられる日が来ることを願いながら。
fin
全部引っ括めてお前が好きだ


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