No.075 再び あきつく
鉛色の空からぽつぽつと雨が降り出している。店の中には、一昨年流行ったラブソングがBGMで流れている。
つくしは、読み止しの本を閉じ、何かを思い出す様に頬杖をつきながら「ふふっ」楽しくて堪らないと言った顔をして小さく笑った。
カランコローン カラン
昔懐かしいカウベルの音と共にドアが開いて、男が一人店の中に入って来る。ゆっくりと辺りを見回してからつくしを見つける。彼女の姿を見つけた彼の瞳は幸せ色に満ちていく。
「遅くなってごめん」そう言いながら椅子を引き腰掛ける。
「待ってる間も楽しいから……それにこの歌」
つくしは、ゆっくり微笑みを愛する彼にむける。
「あぁ、さっき店に入ってきた時思ったよ」
二人の視線が絡み合い微笑みを交わし合う。
二人が出会ったのは、一昨年の丁度今頃だった。
コッツーン コッツーン 暗闇にヒールの音が響き渡る。
ヒールの音のリズムを追うように__革靴の音がする。男が何かを叫んでいるがイヤホンをつけながら足早に歩いていた彼女の耳にはその声は届かない。
男は、歩みを進め女の肩を叩く。
いきなり肩を叩かれ驚いた彼女は
「ヒャッ」
声を上げてハンドバックを振り回していた。
「痛っ__ ちょっ、ちょっ ちょっとタンマ、タンマ。こ、こ、コレっ」
男が定期入れを差し出した。
「えっ?」
慌ててイヤホンを耳から外す。
「驚かせちゃってごめん。声かけたんだけど__気がつかなかったみたいで」
バックで叩かれた頬をさすりながら……手渡して来る
「す、す、す、すみません」
「いやっ、こっちこそゴメン」
二人で目を見合わせて笑い合った。
それが二人の出会いだった。一度噛み合った二人の運命の歯車はなにもせずとも勝手に進んでいく。
二度目の出会いは空也に予約した最中を買いに行った時だった。
「あれっ、君?」
「あっ、こんにちは……頬もう大丈夫ですか?……本当にごめんなさい。それとどうも有り難うございました」
「いやいやっ平気だよ」
そんな言葉を交わして別れる筈だったのだけど
後ろで声がして……予約したのに日にちが一日違いだったらしいのだ。店を出て来た彼につくしは声をかけた
「あのぉ、もし良ければこれどうぞ」
頼まれ物とは別に予約したものを彼に手渡した。
三度目の出会いは、この店だった。
自宅近くのこの店に寄るのが彼女は好きだった。毎週水曜日、この店に立寄りお茶を飲むのを楽しみにしているのだ。
いつもの水曜日___帰ろうとした所で急ぎの仕事を頼まれた。いつも行くよりも2時間程遅い時間に彼女は店に入った。いつものカフェなのに、なんとなく違う感じでちょっぴりソワソワワクワクしながらいつもの席に腰掛けた。
流行りのラブソングが店の中に流れ出す。いつものようにアイリッシュコーヒーを頼みラブソングに耳を傾けた。
カランコロンカラン
カウベルの音が鳴る。新しい客が入って来る。
「あれっ?」
声がして上を向けば.
「こんばんは」
爽やかな彼の笑顔がそこにある。
「この前は、最中助かりました。ありがとう」
「いえいえ」
なんて立ち話をしていたら__ドタドタと団体客が入ってきて、何となく一人で二人席を占領するのが申し訳ない気分に二人はなって
「ココいいかな?」
「宜しければココどうぞ」
声が重なる。
彼の目が彼女の読み止しの本を見て
「それっ……」
鞄を開けて取り出したのは、同じ写真集で……目を見合わせ笑い合った。
聞けば、彼もまた水曜日にこの店に立ち寄るのだと言うのだ。
「水曜はノー残業デーなんだよ。といいつつもこの時間になっちゃうんだけど」
「あっ、うちもそうなんです。今日は残業になっちゃいましたけど」
目を見合わせ笑い合った。
三度の偶然は二人の仲を急激に進展させた。
水曜の夜、つくしはいつもより一時間遅れて、あきらはいつもより一時間早くこの店にくるようになった。
中々進展しない二人の関係を変えたのは__去年の今頃だった。
いつもの水曜日。夕方から降り出した雨は、二人が約束の時間を迎える頃には雪に変わっていた。店を出て帰る頃には薄らと白く積もっていた。寒さは人恋しさを増す。自然に寄り添い愛を語らった。
「で……どうしたの?今日は」
「うふふっ、ゴメンね。嬉しい報告だからどうしてもココのお店が良かったの」
「んっ?嬉しい報告?」
あきらが首を傾げる。
「あのね…..」つくしがお腹に手を当てながらあきらの顔をみて微笑んだ。
キョトンとした顔をしたあとに、目を真ん丸にして喜んだ。
手を繋ぎ二人揃って同じ家に帰る。
来年の丁度今頃、
彼等は結婚を機に引っ越してしまったこの街に、この店に、再び訪れるのだろう。
偶然は必然


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