イノセント 48 司つく
疲れ果て意識をなくすように眠りこけるつくしに深い口づけを落す。閉じられた双眸の端に残る涙の跡をそっと指で拭う。
ただ二人で水の中で戯れたかっただけなのに___気が付けば嫉妬に駆られ傷つけていた。
笑う顔がみたい。そう思うのに気づけばつくしを傷つけている。
つくしの時間も身体も__そして心も自分だけで埋め尽くしたいと渇望しているのだ。
つくしの心の全てを自分に向けさせれるのなら、憎まれても恨まれても___いや、殺されることさえ厭わないとさえ思ってしまうのだ。
狂気に似た思いが司を包む。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「ぅぅう~ん」
つくしは目を覚ます。シャワーを浴びようとふらつく身体で起き上がった。
鏡の中には、至る所に赤い花びらが舞っていた。今迄とて狂っていると感じる程に付けられていたが、最低限のルールを守るように目立つ場所には付けてこなかった。なのに胸元に無数に花びらが舞い、肩には歯形までが付いているのだ。
つくしは目頭を軽く揉み上げてからもう一度鏡を覗きこみ、溜め息を吐いた。
「はぁっーーー 凄いなぁー」
シャワーを浴び終えたつくしは、バスローブを羽織りウォークインクローゼットに入った。
「えっ?」
あまりに驚いて目を瞬かせてからクルリと踵を返してクローゼットを出た。
パタンッ
ドアを後ろ手で閉めてから__「いやっ、目の錯覚?うん。そう目の錯覚」ひとり言を呟いて心を落ち着かせた。無意識にガリリッと爪を噛み、瞳を上下に揺らした。手足が一緒に
出そうになりながら、クローゼットに舞い戻る。
つくしの目の前にはがらんどうの部屋が広がっている。全くもって何もないのだ。
「昨日、あったよね? 下の荷物、全部処分して買い直したって言ってたもんね。で、バカみたいに沢山入ってたんだよね。ココに水着が置いてあって、ここにはスーツがかかってたよね」
昨日の事を反芻するかのように口に出す。何度考えても見間違いじゃない。なのに目の前には何にも残っていないのだ。と言うよりも、さっきまで身に着けていたナイティーと今、素肌に身に着けているバスローブだけしか残ってないのだ。
クローゼットから出てベッドに腰掛ける。ふと部屋を見渡せば昨日と同じ様に日が差し込んでいて、そこで初めてこの部屋が昨日最初に通された部屋と違う位置にあるという事につくしは、気が付いた。
昨晩の部屋を正面だと考えると左手側に位置するのだろうか?よく見れば、大まかな造りはよく似ているが、ベッドの大きさや置かれた調度品がよく見ると微妙に違ったのだ。
「ふぅっーー、ビックリした」誰に言うわけでもない言葉が思わずつくしの口から漏れた。
「って、凄い広いのよね……」ざっと算段した所で1000平米ほどの広さがある「海外並みよね__ただ寝るだけのためにこの広さのマンションに贅沢よね……ってあいつの事だからそんな事考えた事もないか」もう一度大きな溜め息を吐いてから立ち上がった。
部屋を出ようとつくしはドアを押し回した。
「あれっ?」
首を捻りもう一度押し回す。
「なんで?」つくしはガタガタとドアを押し回す。押したり引いたりを続けてもドアは、ビクリともしないままだ。
つくしの顔には険しさが増す。
「プールからだ……」つくしは、青い空に続く窓を開けプールサイドを大股に歩く。自分に与えられた部屋に入った。
どこで見られていたのだろうか、湯気が出ている食事が用意されている。
走るようにドアに向かいガタガタとドアを押し回す。向こうのドア同様、外側から鍵が掛かっているのか押しても引いてもビクともしない。
防音性の高い部屋だ聞こえる筈もない__そう思いながらも何度もドンドンドンッとドアを叩き「開けて、開けて」声を上げた。崩れ落ちる様にその場に座り込む。
カチッコチッ カチッコチッ
部屋の中には時計の音だけが響いている。
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