No.078 クワズイモ 類つく
クワズイモがユラユラと陽の光を浴びて揺らめいている。
あまりにもお陽様がポカポカと暖かくて
「ふわぁっ~」大きな欠伸を一つした。
プルプルッンと子犬のように首を振り眠気を飛ばす努力をした。いつもなら忙しい時間帯なのに、つくしのボスの桜木会長は、何やらお昼過ぎから〝野暮用〟とやらで忙しいようで…...ポッカリと穴が開いた様に暇を持て余しているのだ。夕方には打ち合わせの会食も控えているので帰宅するわけにも行かず、必死に睡魔と戦っているのだ。
ミーティングの調整、資料の翻訳、データーのまとめ、お礼状の作成、はたまた桜木会長の孫のケンタ君が飼っている犬の茶々の誕生日会の手配まで全て終わってしまった。
会長不在の会長室で暇を持て余しているのだ。ボールペンをくるくる回しながら、椅子をクルリと回して、クワズイモの葉の間から揺らめく光をぼんやりと眺める
「類さん、元気……か…なぁ…益々素敵になってるんだろうなぁーー」 類の今を想像しながら、甘酸っぱい思いが心の中を溢れて行く。
「一目会ってみたい__なぁ。ってどこまで、初恋引きずってるんだって話しよねぇーーははっ、いい加減諦めろだよね__今度、お話あったら会うだけでもあってみよう...か...な。あははっ」
椅子から立ち上がりクワズイモの側に行く。
このクワズイモは、つくしが以前バイトしていたあのカフェから株分けしてもらったものなのだ。自分の部屋に一つ。会長室に一つ。桜木邸に一つ。友人や、同僚にも株分けしたものをあげてきた。
今日は、小さなクワズイモを会食相手の社長夫妻に持って行く約束をしているのだ。
「また、仲間が増えるね」クワズイモのハート形の葉にそっと触れて呟いた。
RRRRR……
電話の音に慌てて出れば
「あぁー、桜木だけど、ちょっとそっちに戻れそうにないんで直接Taroで待ち合わせで良いかな。牧野さんに会わせたい人がいるからおめかしして来てね」
「えっ、さ、桜木会長__あ、あたし」
「まぁまぁ、いいからいいから。花沢社長の息子さんでね。中々素敵な方だから。じゃっ、商談もあるんだからちゃんとくるようにね」
口早に用件を述べられて電話を切られてしまった。
まるで、自分のひとり言を聞かれていたようだと__苦笑いを一つ浮かべてから、つくしはTaroに向った。
*-*-*-*-*-*-*-*-*
「えっ 紹介?紹介って桜木会長もまた面倒な事を言ってくるなぁ。ネェ、時間の無駄だから帰ってもいいかな?」
「ですが類様、花沢物産としての立場もございますし__桜木会長とはこれから先のお付き合いもございます。それになにより本日は商談もございますので何卒」
「じゃぁさ、変わりに明日は、休ませてもらいたいんだけど」
「あぁ、もう宜しゅうございますとも、変わりに今晩は必ずお願いいたします」
秘書の言葉に「ふわぁー」欠伸を一つしてからわかったと言う様に頷いた。
類は、何かを考えてるのか?
はたまた何も考えてないのか解らない風情で、クルリと椅子を回してから頬杖をついたあと幾つかの仕事をすませ、待ち合わせ場所のTaroに向った。
Taroの扉に手をかける。
爽やかな風が吹き抜けて行く。つくしが視線を感じゆっくりと振り返る。
「……つくし…ちゃん?」
「……類…さん?」
「「なんで?」」
二人の言葉が重なり合う。
クワズイモが類の目に入る。
「それ?」
「あっ__はい。お店を辞める時に頂いたのを株分けしたものなんですよ__花沢様にお土産で」
「じゃぁ、俺にってこと?」
「えっ?類さんって__花沢さんっておっしゃるんですか?」
「あっ、うん。つくしちゃん、もしかして桜木会長の秘書の牧野さん?」
「はい」
二人の視線が驚きで合わさった次の瞬間、類の心にはブワァッーーと思いがこみ上げて来る。
自分の背中を押してくれたつくしをいつの間にか好きになっていたんだと。この11年間、ことある毎につくしを思い出していたのは好きだったんだから理解した。
「牧野さん、それに……類」
「花沢専務、牧野さん」
花沢夫妻と桜木会長夫妻から声がかかる。
四人で目を合わせたあと、類とつくしを交互に見つめた。
類とつくし、二人の瞳にはお互いしか映らない。
四人は、そっと目配せをする。
「あとはお若いお二人で」
桜木が愉快そうに声をかけ、二人を残してTaroに入っていった。
類は頷いて
「つくしちゃん、行こう」
つくしの手を引き寄せ嬉しそうに笑った。
突然繋がれた手につくしの心はドキドキと高鳴る。
「あっ、あっ、あの、手、手」
顔を真っ赤に染め上げてあのそのすれば
何食わぬ顔した類が「いやっ?」普通に問うてくる。そう聞かれてしまえば嫌なわけもなく。恥ずかしそうに小さく首を振る。
「じゃぁいいよね。11年分」天使の笑顔で微笑んで力を入れてギュッと握った。
桜木会長夫妻が念願の100組目の仲人をするのも遠い未来ではないだろう。
クワズイモ……再会


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