もう一つの物語 〜悠斗 前編〜
何だか昔を思い出して俺も笑っちまった
「ユトくーん こっちこっちー」
俺の愛する女が俺を呼んでいる。
俺の運命を変えた2人のカオル。
一人は、かおる 俺の女。
初めて恋をした女でずっとずっと恋をしている女。たまらなく愛おしい俺の女。
俺の生涯をかけて幸せにしたい幸せにすると誓った女。
もう一人は、愛娘の琉那ちゃんを抱っこして蕩けそうな顔になってやがる目の前の男。宝珠薫
なぁ薫、お前幸せだよな? 琉那ちゃんが生まれてお前幸せだよな?
初めて俺が俺でいる事ができた存在がこいつだった。俺はお前の幸せを心から願う。
俺と薫は、0才いや、ちげぇな。 お袋達の腹ん中からの仲だ。
俺の親父とお袋の親友が、お前の親父さんとお袋さんで‥…
同じ頃に結婚して子供が出来て、小せぇー頃から、一緒に過ごす仲だった。
薫の親父の伊織さんが2つの薫と由那さんを連れて、LUCYの本拠地フランスに渡る迄
毎日って言っていいほど、俺と薫は一緒だったらしい。
薫の両親が、幼い薫を残して亡くなってしまった時、お袋は由那さんの果たせなかった悲しみを思い、嘆き哀しみ一回り小さくなったらしい。
由那さんの事が大好きで大切で、子育てが一段落したら、また二人でバリバリ働いて行こうねって約束してたんだって、教えてくれたよな。
お袋がKAGURAでバリバリ仕事を再開したのも、由那さんが亡くなってからだったもんな。
両親を亡くした薫は 一時期死の淵を彷徨ったらしい。全てを自分のせいだと、自分で自分を追い詰めた小さな薫。
あいつは当時の事を決して誰にも話さない。俺にさえも話してくれなかった。
小さな薫がどんな思いをして生きてきていたか。俺はしらない。だけど、あいつの性格を考え、あいつを見ていると容易に想像は出来た。
俺と薫の再会は、俺等が小学校に上がった年だった。
小せぇー俺はささくれ立っていた。
いつも一緒に居たお袋が、ある日を境に突如として社会復帰してバリバリ仕事をし出したのも原因の一つだが、「ユト君は、こう見えても実は真面目だからね。」 カオが良く言う、俺のこの性格も災いしたんだろうな。
俺は、俺がKAGURAの息子だと言うだけで、媚び諂う大人が嫌いだった。幼稚舎に通うようになってやっと仲良くなった友達も、そいつらの親が俺の親の事を知ると俺に媚び諂う。
小せぇ俺はそんな世界にうんざりしちまった。今思うと生意気なガキだよな‥…
だけど、薫の存在が俺を救ってくれた。
2学期の席替えで、偶然隣り合わせになった俺と薫。
何が原因だったか忘れちまったが、些細な事で言い合いになった。
薫が大人の対応で、俺に勝ちを譲ろうとした瞬間、
「逃げんじゃねーこの女男。」俺が放った一言に
顔を真っ赤にして、怒り出した薫。あんなに怒った薫を俺はこの時以来見た事がない。
あいつ、スゲェー綺麗な顔してて、小せぇながらも女子に、わぁーわぁーキャーキャー騒がれてて色んな大人からも言われてて、挙げ句の果てには女の子に間違われる事がしばしばあったらしく‥… どうやら俺が発した”女男” が余程頭にきたらしい。
フランス語ですげぇ怒りまくったんだったな。俺はその頃、お袋の秘書をしていた万理さんの影響でフランス語をある程度理解し、喋れた。俺はフランス語で負けじと言い返した。
万理さんがふざけて教えてくれたスワヒリ語で勝負をつけてやるって思った俺、くくっ、あいつと言葉が重なった。2人で大笑いして、俺は謝った。
それから俺等は何をするんでも一緒に行動するようになったんだ。
俺のとっておきのカオを薫に紹介してやったのもこのすぐ後だった。カオが薫を見て、「うわぁー王子さまみたい素敵 」なんてほざいた日には、自慢と嫉妬とグチャグチャだったけどな。 その後すぐに、カオが「私の本当の王子さまは、ユト君だけどね♡」って言ってくれて小せぇ俺は天にも昇る気分だったんだよなぁー。
筒井の爺様と俺の親父とお袋の付き合いが再開したのも丁度この頃からだ。筒井の爺様は、由那さんを亡くした悲しみから中々立ち直れず、お袋の顔を見れなかったんだ。薫が笑うようになって少しずつ少しずつ、悲しい心を解き放つ事が出来たのか、俺のお袋を再び可愛がり出した。筒井の爺様の前では、由那さんの話しは、相変わらず禁句だったけどな。
宝珠の爺様が薫をアメリカに連れて行ったのは、高校2年も終わりを告げる頃だった。薫が自分の親父さんが出た大学に行きたいと言い出したからだ。
俺が俺でいるために、付属の学校から飛び出して京大に行こうと思い出したのも丁度この頃だ。
京大に入学して、何となく疎遠になっていたカオと、もう一度きちんと向き合い始めた。あいつが「私も京大に行く」と言い出したときは天にも昇る気分になったけな。
かおるは、生粋のお嬢様として育てられた筈なのに、元々もって産まれた性格なのか?ちっともお嬢様にはなれなくて‥付属の高校に行かない。公立に行くと言い出した時は、かなり親父さん達と揉めたんだっけかな。
「ユト君には、ルゥさんがいるけど、私には友達がいないの。私を私として見てくれる友達が私も欲しいの。ユト君、カオの事、応援してね」と言われた時にはビックリしたっけ。
素性を隠して公立に通い出したカオ。容姿端麗、頭脳明晰のカオには、近寄って来る男共は掃いて捨てるほどいたが、親友と呼べる女友達は中々出来なかったっけな。
そんなカオが変わったのは、高校3年の夏前だった。キラキラしてて、まさか誰か好きな奴でも出来たか?なんて気が気じゃなかったっけな。
あいつが夢中になってたのは、初めて出来た女友達にだった。
「自分の中の知的好奇心がムクムク湧き上がるの。それにね、つくしちゃんは私を私として見てくれるのよ。」
なんて興奮して喋ってたよな。
キラキラした笑顔に、相手が女だって解ってても焼きもち妬いてる自分がいたっけな。
しぃを初めて見かけたのは、京大の学食。デッケェ声で笑ってる女がいんなぁーと思ったら、カオとしぃだった。カオが俺と一緒にいる時みたいに、笑っていて俺は嬉しくなった。こいつが前に話してた友達なんだろうなって。幸せな気分で眺めてた。
しぃに2度目に会ったのは、多神楽でだった。なるほど面白れぇー女だなって思ったのが第一印象。
3度目に会ったのはお袋を多神楽から連行する時。
すっかりお袋や筒井の爺様に気に入られてビックリしたっけな。
いつの間にか、KAGURAで働いていて、で、気が付けば筒井の爺様の秘蔵っ子なんて呼ばれ初めていたんだよな。
こいつこんな綺麗だったか?って思ったのが夏が開けた時だ。休みの度に綺麗になっていくしぃを見て、カオと絶対男だよな〜ありゃーなんて話しをしてたっけな。
そん時、きちんと聞いてやれば良かったのかな? しぃと道明寺の事‥… そしたら何か変わってたのか? でもよぉ、そしたら俺等は薫のあんな風に嬉しそうに笑う姿を見れなかったんだよな‥あん時にもう一度戻れるとしても、俺はやっぱり薫のこの顔を見る為に、しぃお前の話しを聞けねぇんだろうな。
何度あの時に戻る事が出来るとしても、俺は薫のこの笑顔を見たいと願っちまうんだろうな。
更新予定、拍手コメント返信は こちら♥をご覧下さい。
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥

にほんブログ村
♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- キラキラと ずっとずっと番外編
- エゴイスト こ茶子さまより頂き物
- 君と再び出逢う前の僕 雪月堂編
- もう一つの物語 ~悠斗 後編~
- もう一つの物語 〜悠斗 前編〜