No.079 居候 総つく
ツゥゥッーーーーと秘色色*の着物から出る白い手首に指を這わせる。
「ウグッ、ウグッ、ダ、ダ、ダメ、__こ、こ、降参」
そう叫んだあとゲラゲラ笑ってる女__俺の許嫁の牧野つくし17才。
はっきり言おう。目の前の女は品も美貌もない。ついでに言うとお茶のおの字も良くわかってないような奴だ。俺のうちは所謂由緒正しい家柄って奴だ。まぁなんだ家柄が服着て歩いてるみたいなもんだ。加えて俺は、次期家元で自分で言うのはなんだが容姿端麗頭脳明晰だ。
そんなそんな俺に相応しく才色兼備が服着てるような牝ギツネ女と結婚するものだと思っていた。
それなのにだ……なぜコイツ? 朝起きる度に何かの悪い夢だろと首を振る。なのにだ……
「ねぇ、ねぇ、総ちゃんもう一回やろっ。ねっ」
コイツがねだってるのは……
「じゃぁ、もう一回ジャンケンね~ ジャァンケーンポンッ」
単純なつくしは、グーパーチョキの順でジャンケンする。さっきグーだったから今度はパー。ちょっと時間が経ってるので、リセットしてグーからって可能性もあるのでパーで勝負する。
「うぅーー アイコでしょっ」
次はチョキで勝負して場を盛り上げてやる。
「あぁ、またあいこだぁー あいこ くぅぅーーー もう一回ジャンケンね」
あんまり勝ってると怪しまれるから、次は負けてやる。
「うわっ、うわっ、勝っちゃったよぉー クククッ やるもんだねあたし。総ちゃん覚悟してよぉー」
頬を輝かせて
♪♪一本橋~こ~ちょこちょっ 叩いて ツネッて♪♪
ガキみたいにウヒャウヒャ言いながらやってる。って__ガキみたいじゃなく、ガキなんだな。
つくしの目が悪戯気に俺をニヤリと見て
♪♪階段登って~登って~ と思ったら降りて登って~♪♪
「なぁ、そんじゃ終わんねぇぞ」
声をかけた瞬間__俺の脇をくすぐる。あんまりに真剣にくすぐるもんだから思わず笑いが零れれば
「えへへっ、くすぐったい? ねぇねぇくすぐったい? くくっ」
そりゃ嬉しそうに聞いて来る。ったく、マジにガキだ。信じられないくらいにガキだ。
「あぁ、くすぐったい。ってよりも、お前、朝稽古終わったのか?」
「あっ、まだだったぁーー 行ってきまぁす。あぁぁ、もう毎朝毎朝ヤダなぁ」
トボトボ歩いて部屋を出て行く。その様が可笑しくて思わず笑っちまう。
一つしか違わないと思えないほどにガキだ。
「に、しても何時だよ」
枕元の時計を見れば、まだ6時半だ。ったく、毎朝毎朝__あいつよく人の部屋に入って来るよな。女としての自覚なんつぅーのはあるのか? いやっ、ねぇなぁ。
「もう一眠りすっか」
ベッドに潜り込みなおして布団を被れば、いつの間にか夢の国。
「総ちゃーん 起きてぇ~ 総ちゃーん」
目を覚ませば制服に着替えたつくしがいる。
「早く早く。ご飯食べよう」
俺の手首を掴み上げ起こし上げニッコリ笑う。
品も色気も美貌もなんもねぇ。だが俺はこの笑顔にほんのちょっぴり心を奪われ始めている。
*-*-*-*-*-*-*-*-
「ご飯食べよう」
総ちゃんの手首を掴んで起こし上げる。漆黒色のサラサラヘアーの若様みたいな容姿をもつ目の前の人は、あたしの許嫁の総ちゃん。全くもって平々凡々なあたしが何故総ちゃんの許嫁?
事が発覚したのは彼此れ1年ちょっと前。あたしの16才の誕生日の夜だった。黒塗りの車が当時住んでいた社宅の前に止まって西門の弁護士と大宗匠の二人がやってきたのだ。
話せば長くなるからかいつまんで話すと
パパのパパのパパのパパのパパのパパのパパのパパ。あっ、うんとお婆ちゃんのお爺ちゃんのお爺ちゃんのお爺ちゃん。うんと、あたしの八代前がなんでも高名なに日本画家だったらしく……当時何かと大変だった西門家の窮地を西門の当主と親交の深かった日本画家の爺ちゃんが救ったらしいのだ。
何でも二人は仲が良くて___子供達が生まれたら結婚させようって約束したんだって。だけど、年かさが合う男女っていうのに中々恵まれずで、縁を結べなかったらしい。
あたしと総ちゃんは、西門と牧野の悲願のカップルだそうだ。
すっかりと落ちぶれてしまった牧野家にしてみればこの縁組みが万々歳なのは納得だ。うん、納得だ。
でも、西門家にとってコレってどうよ?
なんだけど__なんだけど、放蕩息子3人に囲まれたお義母さん……えらくあたしを可愛がってくれるのだ。
「つくしちゃーん。総二郎さんなんて放っておいてコッチにいらっしゃいな」
なんてあたしを呼んでいる。
しかもだ……結納金って言うの?結納金に代わるお軸2本はかの昔に西門家に渡されているらしい。ついでにあたしのお支度金とやらに代わるお軸2本と共に。なんでもこのお軸噂によると、花鳥風月が描かれているらしく___四本揃う数十億円の価値なんだって。縁組みが揃う迄門外不出は勿論、西門の中でも限られたものしか見る事が出来なかったんだって。あたしと総ちゃんの縁組みが整えば目出たくご披露されるらしい。
と言うわけで、パパの地方転勤と進のパリ留学を機に学生だったあたしは総ちゃんの邸に行儀見習いとして預けられているのだ。
うんっ?総ちゃんのことどう思ってるかって?
最初は軽蔑してたし__ハッキリ言って嫌いだった。
だって総ちゃんって__女遊びって言うの?凄いんだよ。ビックリしちゃったくらいにね。
今? いまは、ほんのちょっぴり総ちゃんを頼りにしてるし、尊敬してる。
だ、だ、だからってあたしと総ちゃんがどうこうなるなんてない。だってあたしと総ちゃんじゃ__月とすっぽん 提灯に釣り鐘だもん。
うん。だから取りあえずあたしは居候だ。うん。居候だ。
秘色色;青磁にのようなごく薄い緑身のあおいろ♥
すこしづつ寄り添って行く......


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