baroque 42
僕は微笑みながら
Piège
君を捕らえる
Piège
罠をはろう
まんじりともせずに朝を迎えた。
朝を待つ様にして全ての資料を整えて片倉がココにやって来た時には、粗方の根回しは終えていた。残すは筒井に対する牽制だ。
朝を待ち薫は、一本の電話をかける。薫の連絡を待ち構えていた様にワンコール目で相手が電話を取った。
挨拶のあと直ぐに薫は本題に入った。
「薫、それは本気でいっておるのか?」
「本気でなければなんだと仰りたいのですか?」
「それは、儂を筒井を敵に回すと言っているのと同じじゃぞ」
「滅相もございません。ただこれ以上の邪魔をされるのでしたら僕にも考えがあります。とお伝えしているだけですよ。なにも今直ぐにというワケではありませんしね。逆にお爺様がお力添え下さるのでしたら幾らでもご恩返しはさせて頂きます。そうそう、こんな電話口でお伝えする事ではありませんが……お爺様方だけではなし得なかった夢を覚悟を決めて引き継がせて頂きますよ」
宝珠の名を名乗ってはいるが薫には由那が受け継いだ遺産の全てが相続されているのだ。
薫にとってさして興味がなかったものが筒井を追い詰めるには格好のものとなるのだ。
電話口の栄は暫く押し黙ったあと__これから先自分が取るべき事を聞いてきた。
「暫くは、何もせずに静観なさってて下さると有り難いです。あっ、そうだ一つだけ__動いて頂こうかな。ご連絡は後ほど入れさせて頂きますね」
「薫、つくしちゃんとの間に一体、何があったのじゃ」
「何があったですか……報告書以外にと言うことでしたら__つくしの僕等への、いいや僕への復讐と言ったところでしょうかね」
「復讐?」その言葉の意味が解らないとでも言う様に栄が繰り返す。
「えぇ、彼女から自由を奪ってしまった僕へのね。ですから束の間の自由を渡してあげようかと考えております」
薄らと笑いを浮かべ、幾つかの言葉を交わしたあと
「お爺様のご英断には感謝致します」
そう言って電話が切られた。
栄は、話し終えた受話器を暫く見つめたあと__驚く程に大きな声を出して笑った。
「まっこと、化けおったもんじゃ。いやっ、欲しいものは必ず手に入れる筒井の宝珠の血が騒ぎ出しおったのか」
栄の顔には肉親としての満足げな微笑みが広がっていく。
愛は、人を弱く脆くすると共に、強く強かに変容させていくのだ。
側に控えていた片倉が薫に書類を手渡す。
静寂な空間に書類を捲る音がする。ピタリッと指先が止まる。
「この男か?」
「恐らくはそうかと__」
「わかった。この男に関して交友関係かなにから全て調べておいてくれ」
「畏まりました」
薫の細く長い指先が写真をビリビリと引き裂いて行く。
「お前ごときに渡しはしない。いやっ、誰にも渡しはしない___」
フワリッと美しい天使のような微笑みを称えて目を閉じる。
薫の瞳には出会った頃のつくしが、中等部に上がり京都で住む様になったつくしが浮かび、高等部に上がり花が咲き始めるように美しく変わっていくつくしが浮かんだ。帰省する度に可憐に変わるつくし__悪い蟲が付かない様に細心の注意を払ってきた。それでも、気が気じゃなくて__交友関係を得るためにゆっくりと送ろうと思っていた大学をスキップして戻って来た。
初めてつくしに好きだと告白した日___小さな時から一度も緊張した事のない筈なのに、喉から胃がせり上がってくる様な感覚を経験した。
つくしに初めてキスした時は、つくしの身体を抱き締める指先が微かに震えた。
幾度目かのキスのあと、つくしの身体を手に入れた。驚く程に感度が良くてのめり込むように抱き潰した。
一から全て教えあげた。悪趣味かもしれないが__全てを僕の色で染め上げた。
君が僕のもとから飛び立っていかないように幾重にも幾重にも鎖で繋いだ筈なのに__
君の心は
君の身体は
僕を裏切り飛び立とうとする。
だけど__放してあげない。
ううん。ちがう。
放してあげれない。
君は僕の命そのものだから。


ありがとうございます♪
- 関連記事
-
- baroque 45
- baroque 44
- baroque 43
- baroque 42
- baroque 41
- baroque 40
- baroque 39