イノセント 49 司つく
長い長い時間つくしは、床に座り込んでいた。
のそのそと起き上がり、クローゼットの扉を開ければ__
「あいつ__やっぱり、狂ってる」思わず声が吐いてでた。
クローゼットの中のスーツやワンピースなどのものは、全てハサミを入れられているのだ。
残るのは誰の為に用意されたのかと思わせるようなナイティや華美な下着……到底外には出て行けないようなものばかりが残っているのだ。
鍵がかかっていた時点で、クローゼットの中身がないのではと半分は覚悟していたが、あまりの斜め上をいく結末に驚きと呆れが襲って来て呆然と立ち竦んだ。
ハイブランドの品物ばかりのクローゼットの中身。一体幾らの損害なんだろうと、つくしは無惨にハサミを入れられた服を見て考える。
「ははっ、こんな広い部屋に住む人間が気にするような金額じゃないか___」
次に考えたのは、この作業一人で黙々とやったのかどうかだった。
「プッ」不謹慎と解りながらも一人で鋏を入れている姿を想像してつくしは、思わず笑ってしまっていた。
「あっ、でも誰かに頼んだ?とか?プッ頼んだ人と2人掛かりで?あははっ__」そこまで考えてから
「あいつも狂ってるけど__どうやってなんて考えてるあたしも大概狂ってるかも」
そんな言葉をポツリと呟いてからクローゼットを出た。
テーブルの上には、湯気を立てていた筈の食事はすっかり冷めていた。冷たくなったオムレツを指で掬って一口口に含んだ。
「ふっ」鼻で一つ笑ったあと、「冷めても美味しいじゃん」椅子に座って冷製仕立てのマンハッタンクラムチャウダーを啜り上げ、ロールパンを口に放り込み咀嚼すれば、何故だか解らないけど「っすんっ、っすん__っすん_」つくしの双眼から涙がとどめなく溢れて来る。涙を啜り上げながらテーブルに用意された食事を平らげて行く。
全て食べ終えたつくしは、ナフキンで優雅に口許を拭き、氷が溶けて水っぽくなってしまったブラッドオレンジジュースを一気に飲み干してから、席を立った。
テーブルに置かれた真新しいスマホがカタカタと音を立てて揺れている。スマホをタップすれば《今日は、一日その部屋にいろ》一方的にそう話す司の声がする。
《……なんで?……鍵閉めたの?》つくしの問いに答えもず
《今日の仕事にはお前は必要ないって事だ》司が答える。
パリーンッ
つくしは、スマホを床に思い切り叩き付けた。
むしゃくしゃする心を持て余して窓の外を見れば、空がどこまでも青く高く澄んでいる。吐き出し窓を開けバスローブを投げ捨てて バッシャーン 水の中に飛び込んだ。
《…パリーンッ》
何かが割れる音がする。
《おぃ、おぃ、どうした……返事をしろっ》
画面がバリバリに割れたスマホから心配げな司の声がする。
つくしは、黒髪を揺らがせながら水の中を漂う。
「空が近いなぁーーー」
空に向って手を伸ばす。
あの日の空を取り戻したくて
空を掴み取れないとわかっているのに、
空に__空に__手を伸ばした。
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- イノセント 52 司つく
- イノセント 51 司つく
- イノセント 50 司つく
- イノセント 49 司つく
- イノセント 48 司つく
- イノセント 47 司つく
- イノセント 46 司つく