baroque 43
小さな二人の
intérét
行く末に
intérét
興味をもったんだ
インディゴちゃんのもと、幾つかの契約が交わされ養子縁組届けが記入されていく。
「じゃぁ、明日の朝届け出は出しますので」
「えぇ、お願いね。明日は筒井つくしとしてのお披露目ね。うふふっ忙しくなるわね」
雪乃の嬉しそうな声を聞いて……つくしは、ガチャンッと手枷が嵌められた気がした。それしかなかったんだと自分に納得させるかのように小さく首を振る。それでも何か大事なことが掌から零れ落ちたようでインディゴちゃんのスーツの袖口を掴んだ。
インディゴちゃんは、振り向いて優しく笑ってから小さな声でつくしの耳元に囁いた。
「まっすぐに前を向きなさい」インディゴちゃんの言葉にコクンと頷いて前を向き嵶やかに微笑んだ。
インディゴちゃんこと藍田ワタル。戸籍上は男性の性別をもつ彼の運命もまた数奇なものを背負わされている。
外側から彼を見れば、女性的な言葉や仕草が伴うものの彼は男性として完璧な美しさを持っている。188センチという高身長、美しく引き締まったバランスのよい身体。海外に留学していた一時期、頼まれてショーモデルをしていたほどだ。
そんな彼が背負っているものの一番が、アセクシャル(無性愛者)だという事実だろう。彼の中には、異性愛も同性愛もあらゆる性欲というものが存在しないのだ。
小さな頃から容姿に恵まれた彼は何しろモテた。透き通るような髪の色が緩やかにカーブを描き美しく整った顔を縁取っている。二次成長が顕著になるまでは、どこに行っても女の子に見間違われた。彼自身もまた美しいものが好きだったので、女の子の事は大好きだった。だけど特定な女の子に対する恋心を抱く事がなかった。
二次成長が始まり自分の容姿が男性のもつ独特なものに変わった時に違和感を覚え始めた。もしかして自分はホモセクシャルなのではないのだろうか?と。綺麗な男性に心惹かれる自分がいたからだ。生きていくのに厄介だなそう思った彼は、先ずは女を抱くセックスを経験した。なんの感情も沸き上がらずにただただ倦怠感だけが残った。
次に、男を抱くセックス。男に抱かれるセックスを幾度か試した。同じ様になんの感情も沸き上がらず倦怠感だけが残った。
倦怠感が嫌悪感に変わった時、不安や葛藤……様々な思いが彼を襲った。肉体的精神的な検査と共にカウンセリングに通った。自分で膨大な資料も紐解いて最後に解ったのは
〝他人に対して性的欲求を抱かない〟そして〝恋愛感情を抱かない〟自分だった。
アセクシャルな自分を受け入れる事は並大抵な事ではなかった。幸いな事に丸ごとそれを受け止めてくれる両親の存在があった。日本を飛び出したのも功を成したのだろう。沢山の友人に囲まれ〝自分自身〟を確立した。
つくしとの出会いは彼此れ9年程前になる……
NYそしてカルフォリニア二つの州で弁護士の資格を修得した彼は、外国法事務弁護士の卵としてジュエルに入社した。ジュエルのNY支社で実務を積んでいた彼を面白い奴だと感じた筒井が、どうせなら日本の弁護士資格も有すればどうだと声を掛けたのだ。
司法試験を受けるのに日本に戻った彼に筒井は、一つお願いをした。それがつくしの家庭教師だった。
幾ら筒井の頼みとは言え、小学生の家庭教師なんてと__最初は断ろうと考えていた
「断る前に一度会ってみてはどうじゃ?」そう言われつくしに会いに萩に行った。
出会った瞬間、彼は小ちゃなつくしに惹かれた。屈託なく溌剌と笑う彼女を愛おしいと感じた。一人っ子の彼に年の離れた妹が出来た瞬間だった。受けてみてもいいかな?そんな彼の心を後押ししたのは、薫の見せた妬き持ちだった。つくしの隣りに居たインディゴちゃんに猛烈な嫉妬心を見せたのだ。
薫の事は、何度か見た事があった。Lucyの後継者としてまたジュエルの大株主として。まだ幼いと言うのに、既に彼には王者の風格が漂っていた。それと共に、上手く隠していたが薫には〝虚無〟と〝闇〟が纏わりついていた。
その薫が見せたあからさまな嫉妬心。インディゴちゃんはそんな二人の将来が近くで見て見たくてつくしの家庭教師を引き受けていたのだ。
自分では一生感じる事が出来ない愛欲の愛憎の世界を近くに居て感じたかったのかもしれない。


ありがとうございます♪
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