baroque 44
あたしを繋いでいるのは
chaînes
目に見えない
chaînes
枷なのかもしれない
「片倉」
不機嫌さを隠さないで自分の名を呼ばれた瞬間__片倉は主の本気を見る。平然さを装い「なんでございましょう」そう返事をすれば
「片倉なら、どんな偶然が恋を盛り上げると思う?」
長くしなやかな指先で顎先を弄りながら射るような目で聞いて来るのだ。片倉はゾクリとした冷たいものを背筋に感じながら「薫様__」主の名を呼ぶ。
「フッ、戯れだ。それよりも、さっきの件は連絡してくれたかな?」
いつもの穏やかな声音に戻り微笑みを浮かべている。
「はい。__ですが薫様。本当に宜しいのでございましょうか」
「片倉がするのは、僕が望んでる事をする。ただそれだけだよ」
「あっ、はい。大変申し訳ございません」
慌てて返事を残して部屋を出て行った。
薫が手元の時計を見れば10時を指している。
「もう話し合いが始まってる時間か。フッ、明日からは、筒井つくしか__ククッ」
愉し気に薫は笑って言葉を繋げる。
「筒井になったら逃げれると思ってるなんて__つくしは可愛いね」
窓を開ける。凍てつくような寒気が部屋の中を駆け抜けていく。何かを目で追う様に外を見つめる。
ドアを開け片倉に声をかける
「……京都に戻るぞ」
窓がパタパタと風に揺られている。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
次の日の朝は、雲一つない空だった。寒さで空気が澄んでいるのか、どこまでもどこまでも真っ青な空だった。
窓を開ける。冷たい風がスゥーーッと部屋の中を流れて行く。
「うーーん」つくしは目一杯背伸びをし深呼吸をした。
トントンッ ドアがノックされ
「つくし様、お仕度の時間もございますので、そろそろお食事を」
メイドから声がかかる。窓を閉め部屋を出る。
つくしを見てメイドがあんぐりと口を開ける。
「つ、つ、つくし様___その御髪はどうされましたでしょうか?」
「うんっ?切ったのよ」
なんでも無いことだと言うように、ざんばら髪を靡かせてつくしが前を歩いていく。
雪乃と栄がいる部屋をノックする。
「どうぞ……つ、つ、つ、つくしちゃ……ん?…ど、ど、どうなさったの?」
「お養母様、お養父様おはようございます」
つくしは雪乃と栄を初めて母と父と呼び、優雅に食堂の椅子に腰掛ける。
背筋を伸ばして黒崎が淹れた紅茶を口に含む。
「つくしちゃん__髪どうしたの?」
雪乃がもう一度つくしに聞けば
「乾かすのが面倒だったので切っちゃいました」
「切っちゃい…ました…って…つくしちゃん」
「変ですか?」
カタンッ
雪乃の身体が崩れる様に揺れるのを、栄が抱き締める。
「雪乃……」
「あぁ、大丈夫ですわ。それよりも__髪を何とかしないといけないわね」
つくしが自分で切ったざんばら髪は、馴染みの美容師の手によってレイヤードボブに切り揃えられていく。
「長いのもお似合いでしたけど短いのもお似合いでいらっしゃいますよ」
美容師の言葉に、つくしはゆっくり微笑みを返し礼を述べている。
大振り袖ではなく、ネイビーブルーのビスチェ型のAラインドレスがつくしの前には用意される。
ドレスを身に纏い仕上げに燦然と輝くブルーダイヤのネックレスが雪乃の手で飾られた。
雪乃はうっとりとつくしを見つめ
「良く似合うわ。その髪もドレスに良く似合ってるわ」
つくしにはそのネックスレスが一瞬、首枷に見えて首元に手を這わせた。


ありがとうございます♪
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