イノセント 50 司つく
太陽がギラギラと照りつけている。
「ふぅっーーーー」
大きな溜め息を吐いてプールから上がったのと、部屋のドアが開いたのは丁度同時だった。
つくしは自分が全裸なのを思い出し、投げ捨てたバスローブを慌てて羽織った。
「お前、なんで返事をしない」
「あんた、なんでいるの?」
司とつくしの言葉が重なり合う。司の顔とつくしの顔が怪訝に歪みあう。
「なんでいるの?仕事は?それになんで鍵かけたの?」
「…………」
「ねぇ、なんで?」
「なんで、なんで一々五月蝿い」
「五月蝿いって__大体あんたが勝手に鍵なんて掛けるからでしょ」
司の手がつくしの手首を捻り上げガラス際に身体を押し付ける。
「痛いっ」
つくしが手を振りほどこうとすれば手首を捻り上げたままキスをする
「なっ」
声を掻き消す様に唇を貪り舌を口腔内に入れ歯茎を舌でなぞりあげる。蕩けそうな口づけに身体がズルズルとへたり込みそうになる。必死で怒りを思い出し心の中で抵抗を試みようとした瞬間___
「誘うような格好で外に出てるんじゃねぇ」
「プッ」
つくしは、突然笑いがこみ上げてきた。
「何笑ってんだ」
「…….ここでどうやって…プッ…誘うの?それに、なんで怒る時そんなに言葉がベランメェ調になるの?」
「……ウルせぇ」
一度外に出た笑いは止まらない。笑いがふつふつとこみ上げて来る。
「ぁっははっ..ぷっ..あははっ」つくしは腹を捩らせ笑っていた。
「チィッ」舌打ちを打つ音がする。その舌打ちさえ笑いのツボに入って来る。
「ねぇっ、あのさぁ、服__一人で切ったの?」
そう聞きながらつくしがケタケタと笑う。
司は、呆気にとられながら目の前の女を眺める。閉じ込められ蔑まされているのに関わらず、何故笑っていられるのだと。
「お前、凄いな」
思わず吐いて出たまことの言葉。司自身驚いたまことの言葉。
「はぁっ~? 何言っちゃってるの?って、言うよりこの部屋から出してくれないかな。あんたはさぁ、あたしのする事なんてないって言うけど、結構たまってるんだよね」
コキコキと首を鳴らしながらつくしが言う。
「お前の好きな男を教えろ__そうしたら出してやるよ」
「……なんで?あんたに?教えなくちゃいけないの?って、いうかあんた何しにきたの?」
何しに来たと言われ___心配で仕事を放り出して見に来たと素直に言えず司は押し黙る。
「なんでなんで五月蝿い。…….外に出たいなら10分で用意しろ」
「用意しろって……外に出て行けるような服、あんたが切ったから一枚もないんですけど」
「…………じゃ、やっぱり今日はここにいろ」
「はぁっーーーあんたさ、一体何がしたいの?」
無礼な奴だと思うよりも何よりも、今迄見た事のないような生き生きとした物言いに司の心の中に歓喜が生まれる。
「それに、新しいスマホが置いてあったけど割れちゃったから……前のスマホ返してくれないかな?」
「直ぐに新しいのを用意させる」
「あのさ、あんたが幾らお金持ちだかしらないけどさ……なんでも壊したり捨てたりするの勿体ないから辞めてくれるかな」
「…勿体……ない?」
「そう、勿体ない。何を怒ってるのかしらないけどモノには罪ないよね?……あっ、まぁあたしもスマホ壊しちゃったから偉そうに言えた義理じゃないかもだけどさ。あんたのは行き過ぎてるっていうかさ__このご時世もっとモノは大事にしようよ」
喋るだけ喋ってスッキリしたのかつくしは、司の横をすり抜けバスルームに向かう。
司は呆気にとられその姿をただただ見つめる。
つくしがくるりと振り向き……
「もしまだあるなら……時計だけは返してくれないかな?あれっ、思い出の品なんだよね……」
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