No.083 よきにはからえ 類つく
ここは、とある江戸藩邸上屋敷
「……若、若様、若様」
測用人の田村が若様を必死に探しまわっている。
「うーーん、中々もってココは騒がしいよね」
ゆっくりと立ち上がり、着流しに着替えた若君は、達筆な文字で
《田村、よきにはからえ》 文を残し今日も今日とて江戸城に繰り出した。
登城日以外は、午前中に行われる政務が済んでしまえば将軍様と違って暇なのだ。いやっ、有能な譜代大名の父の後を継ぐ為に___本来なら暇なんて言ってられないのだが____
ノルマ以上は頑に働かないと決めている若様は、仕事をとっとと切り上げては午睡から目覚めたあとは、フラフラと市中に繰り出すのだ。
「ふわぁっ~」
気怠い色気を振りまきながら町に繰り出した。
暖簾を潜り店に入れば、牧野屋の看板娘おつくちゃんが笑顔で出迎える。
「花さん、今日も眠そうですね」
「さっきまで寝てたからね」
「うふふっ、いつ働いてらっしゃるんですか?寝てばかりいないで、ちゃんと働かないとダメですよ」
ニッコリ笑いながら茶を出して来る。
若様は、聞いてるんだか聞いていないんだが良くわからない風情で微笑みを返す。
ポッ おつくの頬が赤くなる。
おつくの頬が赤くなれば、温かい笑いが起きる。首を傾げて笑いながら若様がつくしを見る。そんな淡い恋心。
二人の行く末に待ち受けるのは___身分の違い。
あぁ~ コレっ如何に
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
つくしは、読んでいた《おつくの花》をパタンッと閉じた。
「うんっ?どうしたの?」
つくしの膝の上で微睡んでいた類が聞く。
「___うう……ん…なんでもないよ」
「なんでもないって顔じゃないよ」
類の両手が優しくつくしの頬を包み込み、つくしの瞳を覗き込む
「なんで泣いてるの?」
ポタンッ ポタンッ
つくしの手の甲に涙が落ちる。
「何でも言うって約束したよね?」
「__ッスンッ、スンッ」
鼻を啜り上げながら必死に泣き笑いの表情を浮かべ、プルンっプルンっと首を振る。
「つくしっ、ちゃんと言って」
つくしの瞳を真っすぐに見つめてほんの少し叱責するように声を出せば__
「スンッ、あのね、あのね」
ベソをかくつくしの髪を愛おしそうに撫でながら
「うんっ、ホラッ落ち着いて」優しく声をかける。
「あのね、あのね___これ」
「うんっ?」
「このね、若様とおつくの恋がね__身分違いで…ね…ッスン…可哀想でね…ッスン、可哀想でね」
鼻がクシャンとなって、子供のように__ウォンウォンと泣き出した。
類は笑い出したいのを堪えながら__
「そっか、うん。そっか。でも、ホラッ 物語の中の二人だからね」
「でもね、でもね__っすん。凄い好き合ってるのに…っすん。この本読んでたらあたしは、類と一緒になれて本当に幸せなんだなって」
類は二本指で額を押さえた。
「ゴメンっ、つくし__可愛い過ぎだ」
ガバッと類がつくしを抱き寄せる。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
次の日の昼下がり___
「類様、目が赤いようですが__如何なされました?」
田村が心配げに類に聞く。
ちょっぴり鼻声で
「っん?なんでもないよ」
類の引き出しに《おつくと花》がそっと仕舞われている。
「あっ、田村__悪いんだけどコレ終わったら帰るね」
「はいっ?」
「うんっ? 田村__よきにはからえ」
「あっ。はいっ」
田村は、思いっきり首を傾げたい気持ちを抑え愛想笑いを浮かべた。
恋しくなっちゃったんだよね__


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