イノセント 53 司つく
つくしが脚を動かす度に水面に映る月が、
星が、
暗闇が揺れる。
目を瞑れば
あの日の幸せな思い出がつくしの心にぶわぁーーっと溢れだしていく。
両手をクロスさせ自分自身を抱き締める。声にならない嗚咽が漏れる。
「っぅくっ ぅっうっ」
あとからあとから涙が零れ頬を濡らす。
哀しみが切なさがつくしの心を包み込んでいく。
もう一度、もう一度__道明寺に会いたいくて
もう一度、もう一度__抱き締められたくて
「牧野、好きだ」
「愛してる」
そんな言葉が聞きたくて、つくしは涙を流す。
「会いたくなかったな__」
ポツリとつくしが洩らした本音。
どんなに酷い扱いを受けても、どんなに惨めな思いにさせられても気を張っていなければ心が吸い寄せられてしまうから会いたくなかった。
「こんなに嫌な思いさせられて、なんで嫌いになれなんだろう__なんで、なんで」
つくしは、下唇を強く噛みながら夏の空を見上げる。
涙がこれ以上零れてしまわないように。
幾度も幾度も閉じ込めた闇がつくしを抱きかかえる。
闇は心を冷やしていく。触れればパリンと壊れてしまうほどに。
誰も知らない。誰にも言わない闇をつくしは抱えている。
濡れた脚を引き摺る様にベッドに戻る。司の顔を覗き込み、ふわりと両頬に触れた。
自分の築いてきた全てを奪われた筈なのに__宝物に触れるように優しく優しく両頬に触れる。
__道明寺が愛した牧野つくしをつくしは、一生懸命演じてきた。もう一度道明寺に出会えた時__あたしはあたしの人生を目一杯頑張って来たよ。そう胸を張って笑って言えるように。精一杯努力してきた。
なのに……
意地悪な神様は、一番残酷な形でつくしと司を再び出会わせた。
つくしの中で司は道明寺ではなく全くの別人なのだ。なのに同じ顔、同じ体臭、同じ仕草でつくしの心を掻き乱すのだ。
憎い。憎い。憎い。
でも、でも、でも、でも……求めて求めて求めて求めてしまう。
苦しいほどに求めてしまう。
好きとか嫌いとか 愛してるとか愛してない そんなのじゃなくて、心が身体が司を求めてしまうのだ。
いやならここを飛び出せばいいだけなのに……思いが膠着したままの身体は飛び立てないのだ。
惨めで苦しくなるのがわかっているのに__乞うているのだ。
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