No.089 おさな妻 総つく
ちょこまかちょこまか 前を歩いたり後ろを歩いたり__
本当に目が離せない。
「総ちゃん、総ちゃん、見て見て雪割草だよ。可愛いね」
紫に咲く小さな花を見つけて嬉しそうに見つめている。
手を伸ばし手折ろうとすれば
「見てるだけで充分だよ」クルリと振り向いて笑って言う。
なぁ、つくし貪欲になれよ。そんな言葉が口を吐いて出そうになる。
「あっ、総ちゃん 総ちゃん 焼き芋屋さんだって」
たったか駆け出して焼き芋屋の親父を呼び止め嬉しそうにあれこれ指差しながら包んでもらってる。
「総ちゃーん 見て見ておじさんいっぱいオマケしてくれた」
邪気のない顔で赤く頬を染め戦利品を俺に見せて来る。
「ったく、お前は子犬か」
「っん?なんで子犬?」
プゥッーーーと唇尖らせながらジロリと俺を見る。
ガキみたいに喜怒哀楽を盛大に見せながら俺を魅了する。いつの間に俺はコイツに惚れていた。
許嫁なんて__
いいこと思いついてくれたもんだと……八代前の爺様達に感謝する。
「ねぇ、総ちゃん、お芋さんさ皆喜ぶかな?」
「あぁ、特に家元夫人は大喜びだぞ」
「あっ、総ちゃんお母さんでしょ。お母さん」
「はい。はい」
「あっ、はいは一回!」
「はい。はい」
わざと眉間に皺寄せながら怒ってやがる。
ったくなぁーー 色気はない。全くもってガキで、その癖して口煩い。なのに俺はコイツに惚れている。
「つくし、明日は久しぶりに外で待ち合わせすっか?」
俺の言葉に、
「うん。」
満面の笑顔の花を咲かせてくれる。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
11時の鐘に合わせて絡繰り人形が踊ってる__
あたしは、踊る人形を見ながら総ちゃんを待つ。
周りの景色が色めいた瞬間__総ちゃんがやってくる。
総ちゃんはモテる。そりゃそうだろう。
何しろ目が覚める程に美形だ。それに加えて__優しい……モテないほうが可笑しい。
に、したって__モテ過ぎだ。女性なら赤ちゃんからお年寄り迄全部が総ちゃんを好きなんじゃないのかっていうくらいモテるんだもん。いやっ、違う。人間だけじゃない動物のうん蝶々の雌だって花の雌しべだって総ちゃんを好きだ。
「はぁっーーー」
大きな溜め息と共にあたしは、ショーウィンドウに映る自分を見る。ショーウィンドウの中には普段比138パーセントのあたしが映ってる。
でもでも__そんなあたしなんか “フッ” って虚しくなっちゃうような存在が隣にいる。
顔面偏差値の差は仕方ないと思うけど、総ちゃんのこの色気。思わず触れたいと思ってしまう
「はぁっーーー」
「なぁ、なにさっきからブツブツうるせぇの?偏差値がどうのこうって……お前結構勉強出来んだろうが」
ブツブツって……乙女心がわからないやつめ!
コチョコチョの刑に処するんだからね。鼻息荒くしてみれば
「なぁ、コチョコチョの刑って__ったく」
あたしは自分の口を慌てて押さえた。
総ちゃんが優しくクスッと笑う。
ふぅっーーーー
破壊的にトキメイチャう笑顔だ。
なんで、この人があたしなんかの許嫁なんだろう?
ねぇ、総ちゃん......あたしでいいの?
良くないよね……
総ちゃんの隣りにあたしなんて似合わないよね。
わかってるのに__一緒にいればいるほどあたしは総ちゃんを好きになる。
エーンエンと泣きたくなるほど好きになる。
人混みの中、総ちゃんの背中を見つめ後ろを歩く。
一瞬、見失う。次の瞬間__
総ちゃんの手がニョキッとあたしの前に伸びて来る。
嬉しくて嬉しくて、あたしのお喋りの唇は口走る。
「総ちゃん__」
「うんっ?どうした?」
「あたし、総ちゃんが好きみたい」
突然告白しちゃった唇に、あたしはビックリだ。
引っ込め言葉。巻き戻せ時間 そう思った瞬間
クシャリと__総ちゃんが嬉しそうにあたしに微笑んで
「なぁ、つくし__俺はとっくのとうにお前が好きだぞ」
そう言って、両手であたしを抱き締めてくれた。
あたしは、明日おさな妻になる。
おさな妻かぁーーー 甘美な響きだよなって総ちゃんが笑う。
少しずつ恋をして、かけがえのない思いが出来上がる


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