もう一つの物語 ~悠斗 後編~
美しい顔で自嘲気味に呟いたあの日‥…俺は忘れない。
薫は、由那さんと伊織さんの思い出の場所『雪月堂』で運命的な出会いをした。
皮肉な事に、2人の思い出の場所と知らずに、薫は運命の女、しぃと出逢っちまったんだったよな。
再びお前等2人が出逢ったのは、桜の野点だったけな?
薫のあんなに驚いた顔、そして嬉しそうに笑う顔を初めて目にした。
コイツはいま恋に落ちたんだ。って一発で理解出来ちまう顔だった‥…
夏が来て、しぃをNYに送り出した後の薫の落胆ぶりは、見てるこっちの胸が痛む程だった。決して感情を見せなかった薫なのに、絶望を隠すゆとりもなくしていた。
こいつぶっ倒れちまうんじゃないのか?と心配したほどだ。
しぃが帰って来て一緒に暮らし始めると六麓荘で聞いた時‥…
一緒に暮らすと話す、薫の笑顔を見た瞬間、
あぁー薫は、しぃを2度と手放す事は出来ないだろうと悟った。
薫がどんなに、時が来たらしぃの手を放し、幸せを願う覚悟が出来ていたとしても、一緒に暮らしちまったら無理だ。時間は二人の間に絆を作る。
しぃと出逢って色々な感情を解き放っていった薫。
だけど、光があれば影が出来る。
幸せがあれば不幸せが寄り添う。
俺は薫の幸せをただただ祈った。
薫が、ただ一つだけ手に入れたいと願ったのが、しぃお前だったんだよ。
なぁ、しぃお前に他意がなかったのは、解ってる。
でもな、お前は、お前を愛する男に対して、自覚のないまま、残酷な仕打ちをしていたのも事実なんだよ。
薫はしぃの幸せそうな顔を見るだけで我慢する筈だった。自分の気持ちに蓋をしてお前の幸せを願う筈だった。それを破ったのは、しぃお前だ。
お前は薫の優しさに甘えちゃいけなかったんだ。居心地が良いからとずるずると甘えちゃいけなかったんだ。
愛されるものは、愛する者に対して時に傲慢だ。
その気がなくても、その傲慢さで人を傷つけているんだ。
どんなに傷つけられても、花に蝶が群がるように‥…
愛する心は止められねぇんだ。
お前はそれにもっと早く気が付かなきゃいけなかったんだ。
しぃが、道明寺一生涯心から消せねぇように、道明寺がしぃを愛して止まないように、薫はしぃを狂おしいほど求めるんだ。それが運命だから。
薫がしぃを絶対に手放さないと、自覚したのはあの日だろう。
TSUTSUIセミナーのみんなで祝ったしぃの二十歳の誕生日会。
パーティーの終わりがけの頃かかってきた一本の電話‥‥ しぃの笑顔が凍り付いた。他のみんなは気が付かずにパーティはお開きになったが、俺とカオはいつもとは違うしぃに何かが起こったのだろうと心配した。
途絶えたしぃと薫からの連絡。
連絡をとっても、ちょっと具合が悪いから寝てるんだ。としか言わない薫。お見舞いに行きたいと言ってもシャットアウトされた俺等。逃げるようにしぃを連れて出かけた薫。
大学が始まり、しぃの顔を見た時、少し痩せてはいたものの、元気そうで安堵した。
天橋立の別荘、俺の両親と薫の両親が気に入りよく訪れていたという別荘。あの別荘にしぃを連れて行ったと、カオから聞いた時の俺の驚き解るか?
薫はもう引き返さない。もう全てが動き出しちまったんだと不安になり。‥…同時に、あぁーやっと薫は自分の心を解き放てる相手を見つけたんだと、俺は嬉しくなったんだよ。
天橋立の羨望は幼いお前を救ってくれた場所。この世に留めてくれた場所。そこでお前は、しぃを救いたかったんだよな。そしてしぃを手に入れる為に幼く傷ついた自分とはサヨナラしたんだろ?
なんでお前が選んだ相手が、しぃだったんだろうな?
ちがうな、しぃだったからお前は恋をしたんだよな。しぃだから手放せねぇし、狂おしく求め続けるんだよな。
俺がカオを求めるように、薫はしぃを求めるんだろうな。
薫にとって、しぃがいねぇ人生は、生きる意味がねぇ人生なんだよな。
しぃがいるから、薫はこの世の中に生きる意味をみつけたんだもんな。
なぁ薫、俺はお前の進んで行く道を守り応援し続けると決めている。お前の笑顔を守るために。お前をこの世の中に繋ぎ止めるために。それが俺のエゴだ。
しぃ、ゴメンな。俺は薫を裏切れねぇ。小せぇ俺を救ってくれた薫を俺は裏切れねぇ。俺はお前達の幸せにはとことん協力する。だがな、お前が薫を捨てる事があれば‥…俺は鬼になる。
琉那を抱きしめ、薫が笑う‥…
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