イノセント 54 司つく
二人揃って愛を乞うている。
なのに、お互いの心にまだ届かない。
司は夢を見ている。
夢の中で司は、愛する女に向けて必死で手を伸ばしている。女の手が司の手を取ろうとした瞬間___闇が司を追って来て一気に呑みこもうとする。
「ヤメロ 離せ」
必死にもがけばもがく程__闇は司を追い詰め呑み込もんでいく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
喉がカラカラに渇いて目を覚ました。隣りを見れば__つくしが丸くなって眠っている。蕩けそうな優しい顔をしながら額に貼り付いた髪を掻き分ける。
つくしの大きな瞳を思いながら猫のように丸く眠るつくしを抱き締めて眠りについた。
司の心から悪夢が去り安堵が広がっていく。離したくない。いや離せない__そう思うのに素直になれずつくしを苦しめる真似ばかりする。
翌朝、つくしが起きれば__隣りに司の温もりは無くつくしは淋しい気持ちを抱えベッドから抜け出した。
扉は大きく開かれている。ちょこんと首を出しと也の部屋を覗けば司がコーヒーを飲みながら書類を読む姿が目に飛び込んで来た。
夏の日の朝陽に照らし出された司は、とても美してつくしは一瞬見惚れて__後ずさった。
カタンッ つくしが音が立てれば、
書類に目を落したままの司が声を掛ける。
「30分で用意しろ」
「……いいの?」
「休むならそのままでもいい__行くなら早くしろ」
「……ありがとう」
ありがとう〟の言葉に司は顔を見上げて驚いたようにつくしの顔を見る。つくしは、その視線に気が付きもせず踵を返しバスルームに駆け込んでいた。
化粧を施し、クローゼットを開ければいつの間にか用意されたのか所狭しと服が掛けられていた。
「魔法使いみたい」
自分の洩らした言葉に、ほんの少し笑みを零した後
「フフッ__まだ笑える。まだ大丈夫。うん。大丈夫」
そんな風にひとり言を呟いた。
目が覚めるようなスカイブルーのワンピースを手に取り身に纏った。
部屋を出れば、大迫が既に来ていた。いつもと変わらぬ朝が始まる。
午後一番で滋からのアポが入ってきた。
「チィッ」
忌々し気に司が眉を顰める。
「大迫、これ何とかならないのか?」
大迫は、つくしをチラリと見ながら声を落して
「それが社長がご無理でしたら牧野さんだけでも宜しいとおしゃってまして……」
クシャリッ と机の上の書類を握り潰しながら
「はぁっーー。ったく。明後日の午前中一時間だけだ。そのように返事をしてくれ」
「社長、その日は11時には成田に向いませんと__」
「だからだ。9時から10時の間だけだと返事をしろ。それと__牧野も連れて行く」
「牧野さんもでいらっしゃいますか?」
「あぁ、牧野もだ」
大迫が言葉を続けようとしたが__司は言葉を遮るように仕事に取りかかった。
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