No.095 DOPPEL あきつく
タクシーに手を挙げる。
「………までお願いします」
肩を抱く酔っぱらい女性を車に押し込めて、にこやかに笑って手を振れば
「ノブさ〜ん、つくし君〜またね〜」
車の中の女性達が騒ぎながら手を振っている。
「今日は、有り難うございました。ではまたミラージュでお待ちしています」
隣りでノブちゃんが艶やかに笑っている。車が見えなくなった途端煌びやかな衣装を翻し、店に入っていくのをあたしは追い掛ける。
責任者の館さんに声を掛けられる
「筑紫君、オーナーが呼んでるよ」
「はい」
あらん限りの低い声を出してあたしは答える。
ニヤつく顔を引き締めてオーナールームをノックする。
「筑紫です」
「あぁ、入って」
あたしが、ここミラージュで働くわけが目の前にいる。
出会いは一年前に遡る。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
まるごと愛媛で買い物を頼まれたあたしは、ちょっとドキドキしながら、普段は行かないようなお洒落な街に繰り出していた。
あたしの目の前を同じゼミのカップルが通りかかった。
目が合ったので、軽く会釈した。
あたしを見るといつも何だか「フフンッ」としてる花茂地さん。上から下まで一瞥したあと、フンッとしたあと、彼氏の奈良君に腕を絡ませていた。
うわっ、感じ悪い__なんて思ったものの残念なことに同じ方向に進むしかなく、なんか二人の後ろを着いて行く感じで歩いてた。
見るからに柄の悪そうな男が、奈良君にドンッとぶつかって
「あっ、イタッたた、痛っ、たたたっ」
「ヤス、大丈夫かぁ」
「兄貴、痛いっす」
「す、す、すみません」
「すみませんで済んだら警察いらねぇーんだよ。ったく、お前がぶつかってきたせいで、アッ、痛ったたた…こんなんじゃ仕事にならねぇーなーー、なぁ 話し聞いてんのか」
「おぉっ、聞いてんのか?」
男3人に取り囲まれて脅されていた。ついつい__
トントントントンッ
いちゃもんつけてる男性の肩を叩いて
「あの、あたしの見る限りでは態とぶつかっていかれたのはあなた方でして__」
クイッと銀縁眼鏡を押し上げながら正義を振りかざしていた。
次の瞬間、男達があたしの方を振り返り
「ぁあーー んだっ。お前が責任取ってくれるっつぅーのかよ」
「っんだよっ」
「責任と申されましても……」
しどろもどろに答えてる隙に、花茂地、奈良カップルはそろりそろりと後退ってから脱兎の勢いで走り去って行った。
「チィッ、あいつ等逃げやがった。った、代わりにお前に責任取って貰わなきゃな」
「おぅっ、おぅっ、どうすんだ、おっ」
「わ、わ、私にそう言われましても__」
「ぁなあんだとーー」
その中の一人が殴り掛かろうとしてきた。
慌て過ぎて尻餅をついた。あぁ、もうダメ。殴られる。咄嗟に頭を抱えて下を向いた。
うんっ?10秒たっても殴ってこない。
うんっ?上を向く。
男の腕を捻り上げながら
「可愛いお嬢さんになにしてるの?」
「ぁあんだとぉ」
息巻く男3人を軽くあしらいあたしを助けてくれた。
ボォーッするあたしに
「大丈夫?」
爽やかな笑顔で右手を出して立たせてくれた。
「憶えてろ」
お決まりの台詞を残して男達が去ったあと
「どこか行く途中?」
「ま、ま、まるごと愛媛に」
「じゃぁ、そこまで送るよ」
あたしの人生で出会ったことのないような素敵な人で、なんだかいい匂いはするわ、髪の毛はサラサラと揺れてるわ。まるで王子様のようで___自分の銀縁眼鏡に切りっぱなしの髪。膝が出たジーンズが恥ずかしくなった。
「君、かっこ良かったね」
ニッコリと微笑んだあと
「でも、女の子なんだからあんまり無茶しちゃダメだよ」
なんて囁かれて
「あっ、ここだよね?じゃぁ、もう無茶しないようにね」手を振って去っていった。
恋をした。……で……あたしは彼を待ち伏せした。お洒落な街で張り込みをした。って、苦学生なあたし。駅前のコーヒースタンドでバイトして張り込みを開始した。
そこで知り合った、女装子ちゃんでカメラマンのノブちゃんはヘアーメイクの達人だった。
「つくしって、やり甲斐があるぅ〜」
なんて言いながら、あたしを別人に変えてくれた。色んなあたしを体験した。
ノブちゃんと帰る途中__彼を見つけた。
ふらふらと__彼のあとを追っていた……彼が入って行ったのが、ここ〝ミラージュ〟だった。
ふらふらっと、ついついふらふらっと後を着いてお店の中に入って行っていた。
店に入った瞬間、沢山の美男子がいて凄まれたあとに___
「なにお前ら、面接希望?」
なんて声を掛けられて___
好条件に釣られて真剣に話しを聞いてるノブちゃんと共に次の日から〝ミラージュ〟で働くことになっていた。
ははっ、ははっ……
えっ、そう新人サパーとして
えっ? ミラージュは、何の店かって__ははっ、実はサパークラブってやつだ。
サパークラブ___まぁ、簡単に説明すると、ホステスさんやキャストさん達のアフターの場所として存在している。
アフターだけじゃなく、今日みたいにキャストさん達の女子会や、セレブ奥様ご来店なんていうのもあるんだけど__
そう__ノブちゃんがあたしに施してくれた変装は、純情BOYだったんだ。で、あきらさんのお膝元に来たのはいいけど__あははっ、サパー筑紫君だ。ちなみにミラージュではノブちゃんの弟ってことになっている。
女だってバレたらここ〝ミラージュ〟で働けなくなっちゃうから真剣に男装している。
そうそう、ノブちゃんは瞬く間に売れっ子サパーになった。元々話しは豊富だし女心も男心も熟知してるからね。ハンサムな外見と似合わず自虐ネタしながら場を盛り上げるのも得意で、ノブちゃんご指名の太客は、男性も女性もいっぱいだ。
で
あたしはノブちゃんのヘルプとして日々頑張りながら、一日一度ミラージュに立ち寄るあきらさんに見惚れてる。
好きな人の側に居れる幸せと、どうにもならない思いに溜め息を吐く。
気持ちが溢れて溢れて溢れていく。
あたしの恋心は加速する。
あなたが好きだと叫びながら......
トントンッ ドアをノックする。
この恋どうなる?


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