イノセント 56 司つく
司は苛々と脚を揺らしている。周防は申し訳なさそうに目を伏せ、つくしは困惑した表情を浮かべている。
一人嬉し気にはしゃいでるのは__滋ただ一人だ。
「うふふっ、周防と結婚して良かったぁー。あの人さぁ、私にべた惚れでね、大概の我が儘は聞いてくれるのよ。ププッ司は凄く嫌そうだけどね。でもさぁー、つくしの独り占めはズルイよね。あっ、この前の約束も類君来るとか行ったから妬き持ち妬いたんでしょ?ゥププッ、相変わらず類君に嫉妬するのねー」
滋の言葉につくしは激しく頭を振れば
「またまた〜、さっきだって周防がつくしと握手しようとしたら、あからさまに違う用事を言い渡したじゃない。ホント相変わらずよねー」
そう言いながら片手をあげCAから赤ワインを受け取っている。
「つくしもどう?」
つくしにも真っ赤な液体が入ったグラスが振る舞われる。
滋は、顔中に笑みを浮かべながらつくしに抱きついて
「本当に、良かった__つくしのこと__司が思い出して」
ポツンッ、ポツンッと滋の涙がつくしを濡らした。
「本当に、本当に良かった。良かったよぉー」
「滋さん__泣かないで」
「だって、だって__」
初めて好きになった相手、そして初めて出来た親友に訪れた不幸に対して滋もまたこの十年__哀しみを抱えて過ごしていたのだ。
幸せになって貰いたかった。誰よりも二人には。
「司のお母さんが邪魔したら周防と大河原二つで守ってあげるからね」
滋は泣き笑いの顔でそう言うとつくしにもう一度抱きついた。
「滋さん……」
滋の暖かい心が伝わってきて、つくしは哀しみの中途方にくれる。
飛行機の外は、異国の香りがする。
「さて、私とダーリンは視察に行くから、滞在中にまたどこかで約束して食事にでも行こうよ。ねっ」
周防と滋が手を振る。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
海外出張だと言われ着いて来たものの、滋達と別れたあと、司と大迫も出掛けてしまいつくしは一人で時間を持て余すことになった。
SP達には、忙しい思いをさせて申し訳ないと思うものの__つくしの目には、新しく出来たばかりのホテルの造りが気になって仕方ない。あちらこちらの画像を撮りながらうろうろと歩き回っていた。
「つくしちゃん……なんでここに?」
後ろから声をかけて来たのは、暫くぶりに会う雅哉だった。つくしはペコリとお辞儀を一つしてその場を離れようとした。慌てていたから履いていた靴が足許の絨毯に引っかかった。
咄嗟に雅哉の腕が伸びてつくしを後ろから抱きかかえた。
雅哉の吐息がつくしの項に触れる。
「あっ、ありがとう」
つくしが上体をお越して雅哉の腕から離れようした瞬間__雅哉が強くつくしを抱き締めた。
「あの日……なんで来てくれなかったの?それに__その後も」
SPが近づいて来る。
「雅哉さん…あの、放して」
小さな声でつくしは呟く
「嫌だ。離せない」
雅哉の言葉に
「後で連絡するから__お願い今は放して」
咄嗟にそんな事を言っていた。
「絶対だよ。じゃなければ俺がつくしちゃんの所に行くから」
「解ったから、手、放して…」
SPの手が雅哉の肩に触れようとした瞬間__雅哉の腕からつくしは離れた。
「ありがとうございます」
SPの動きを制するように、お辞儀をしてその場を離れた。
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