No.097 サプライズ あきつく
「筑紫君、ちゃんと話し聞いてる?」
「あっ、はい。すみません」
真っ赤になりながらモジモジしてる__筑紫君……俺は何でか面接の時から、この子のことが気になって仕方ない。
一緒に面接に来た〝ノブ〟彼は間違いなく売れっ子になると直感した。
その直感は正しく、瞬く間に〝ミラージュ〟のNo.3に躍り出ている。
だけど__俺の目を奪ったのは、筑紫君だった。
いやっ、俺、断じてゲイじゃない……筈。
なのに、なのにだ、筑紫君が気になって気になって仕方ないんだ。
ノブが筑紫君に触れたりするのを見る度に、「やめろ」と怒鳴りたくなるほどだ。兄弟だし、男同士なのにだ__
筑紫君の、この白い肌に触れたいなんて思ってるんだ。
「筑紫君は、就職活動はきちんとしてるの?」
「あぁ、まだです」
「そっか__バイトもいいけどちゃんと就職活動もしないとね」
なんて余計なことを話すのに態々呼び出して__舐め回す様に筑紫君を見ているんだ。
ヤバいよな___ こんな気持ちが筑紫君にバレたらめちゃ引かれるよな。なのにだ
「力になれることがあったらいつでも言えな」
なんて余計な事を話してる。
「ありがとうございます」
綺麗にお辞儀する筑紫君に__見惚れてる。一瞬、目があって筑紫君が慌てた様子で
「お、お、俺 ノブちゃんのヘルプしなきゃいけないんで__」
慌てて去って行く。
パタンッ
ドアが閉められた瞬間__二人の口から溜め息が漏れる
「「ハァッーーー」」
少しでも側に居たい気持ちが溢れて行く。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「つくし、レッツゴーしない?」
「あははっ、いいよ
ノブちゃんと2人でロリィタ&ゴシックデー
えっ? ロリィタ&ゴシックデーって何かって?
あははっ、ロリィタ&ゴシックGirlに変身して街に繰り出すのだ。
フワフワ巻き髪にボンネット。ベビードールにパニエを幾重にも重ねて ロリィタつくしの出来上がりだ
「つくし、似合うじゃん」
「ノブちゃんも相変わらず綺麗だね」
「うふふ、そりゃそうよ」
なんて笑いあって街に繰り出した。
ノブちゃんはモデルさんのように綺麗で街を歩く人々がみとれてる。
「ノブちゃん凄いね。どこ行っても注目の的」
「あらっ、つくしだってお人形さんみたいに可愛いわよ」
ニコッと笑い合って手を繋いで街を歩いた。
「あっ“」
ノブちゃんが小ちゃな声で呟いた。前を見れば__あきらさんが綺麗な女性をエスコートしていた。
「知らんぷりよ知らんぷり。いつもと別人だからバレない筈」
横を通り過ぎる時、あきらさんがチラッとあたしを見た気がした。
*-*-*
日曜の昼下がり__自分の中の男を確かめるために……以前にナンパした女とデートする。
なのに、なのに___目の前から歩いてきたロリィタファッションの人形みたいな女の子が___筑紫君と重なる。
すれ違う時……目で追って行った。
その晩__自分の男を確かめる事は出来なかった
ははっ、俺、かなりヤバい。と自覚した。
「ハァッーー」筑紫君が女の子ならと何度も何度も溜め息を吐いた。
*-*-*-*-*-*-*
恋が募って苦しくなったあたしは、目標金額を貯蓄したノブちゃんが野生動物カメラマンとしてサバンナに旅立つ為にミラージュを辞めると聞いた時、一緒に辞める事を決めた。
最後の日、あきらさんが何か言いたげな顔をしていたけど
頭を下げて__ミラージュを去った。
お洒落な街には、近づかなくなった…… ミラージュでいっぱいバイトしたから、バイト代もいっぱい貯まっていて就職活動に専念出来た。お陰さまで目出たく就職先も決まった。
*-*-*-*-*-*-*
ノブと一緒に筑紫君が辞めると聞いた時、会えなくなる淋しさを不毛な恋を終わりにするには、これでいいんだ。これしかないんだと納得させた。
最後の挨拶に来た筑紫君に
『好きだ』
と言って抱き締めたくなったけど__目を伏せ諦めた。
日毎募る思い__男だってなんだっていいじゃないかと思った時には、2ヶ月という月日が経っていた。
探して、探して、探して、探して、探した。
筑紫君なんていう人物は、存在していなかった。
ノブに連絡を取ろうにも後進国に旅立っていったノブとおいそれと連絡がとれるワケも無く__
後悔と共に月日を過ごした。
*-*-*-*-*-*-*-*-*
あの日から2年の月日が経っていた。
ミラージュはじめ風俗産業部門を活性化した俺は、美作商事に戻る事が決まった。
久方ぶりに筑紫君の映ったアルバムを紐解いて__やっぱり筑紫君にもう一度会いたいと願っていた。
筑紫君が男だろうとなんだろうと__この気持ちを伝えない限り一歩を前に進めないと思った。
店から出る時に、画廊の幻子のオーナーに声を掛けられて挨拶を交わす。
「そうそう、そう言えば、ノブ君って居たでしょ?」
「えぇ」
「彼、来月うちで個展が決まったのよ。あきらさんも是非に来て頂戴な」
俺は幻子のオーナーにノブの連絡先を聞き___連絡を取って会う事にした。
「個展開催決まったんだってね。幻子で開催なんてノブもすぐに一流カメラマンだな。先ずは乾杯」
流れ過ぎた月日の会話を交わした後、筑紫君の連絡先を教えて欲しいとノブに頼んだ。
ノブは随分と驚いてから
「それって、つくしが好きだからつくしに会いたいってこと?」
「……あぁ、そうだ」
「一つ確認したいんだけど__あきらさんってゲイなの?」
眉間に皺を寄せ聞いて来る。
俺は頭を振って「ノンケだ」そう答えてた。
「そう、なら会わせて上げる」
ニッコリ笑ってスーツの胸ポケットから招待状を出して俺に手渡してくれた。
「個展の前にさ、俺の写真使った店のオープニングパーティーがあるんだ。これそこの招待状だから良かったら来てよ」
「ここに筑紫君が?」
「うーん多分くると思うよ。ククッ楽しみにしててよ」
待ちわびる。時が経つのを待ちわびる。
いよいよ明日と言う日__
俺はとてつもない心配に見舞われた。
気持ちを受け入れてくれなかったら?いやっ、その方が可能性大だ。とは言え、それは仕方が無い事だ
だけど__筑紫君が俺を拒絶したら? 好きじゃなくてもいい__拒絶されたら?
一睡も出来ずに朝を迎えて会場に入った。
キョロキョロと周りを見回す。
トントンッ
肩を叩かれる。俺は後ろを向く。
「っん?」
そこに居たのは__筑紫君じゃなくて
深紅のドレスに身を包んだ黒髪の美しい女性だった
「あきらさん、お久しぶりです。つくしです。牧野つくしです」
「筑紫…君? 筑紫君って女装癖があるの」
後ろから笑いを押さえたノブが近づいてきて
「つくしは、正真正銘の女」
「えっ?えっ?えぇーーーーーーー」
俺の驚きの隣りで、コクンコクンと筑紫君がいや、つくしちゃんが頷いていた。
「あきらさんは憶えてないと思いますけど、以前出勤前のあきらさんに助けてもらった事があるんです」
俺はつくしちゃんの顔をマジマジと見る。
「……もしかしてまるごと愛媛の子?」
コクンとつくしちゃんが頷く。
色々な脱力感が襲って一瞬、クラっと倒れそうになったけど__その次に訪れたのはとてつもない幸せだった。
「あきらさん__あたし、あたし、あきらさんがす」
「ちょっと待った」
俺はつくしちゃんの言葉を慌てて止めて
「つくしちゃん、俺つくしちゃんが好きだ。結婚してくれ」
叫んでた
つくしちゃんがコクンと頷いた。
交際0秒のプロポーズ目出たく成功。
「やったぁーー」
俺の歓喜の声に、皆からの大きな拍手が部屋の中に響いた。
お幸せに♪♪
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