No.098 愛し~うつくし~ 総つく
「つくし様、ここはもう宜しゅうございますので」
「私達の仕事もなくなりますしそろそろ」
「平気、平気。ホラッ、仕事がなくなったら皆でお三時にしましょうよ。あっ、なんなら後で井川屋さんで鯛焼き買って来るけど」
「ありがとうございます……でも、そろそろお稽古に戻らないと……横田さんがお怒りになられるかと……それに若宗匠もそろそろお帰りになりますし」
「今日ね、釣釜のお稽古なの__あたし苦手なんだよね」
「炭手前も違って参りますし、柄杓の扱いも難しゅうございますからね」
つくしは、手を動かしながらうんうんと頷きながら
「そうなのよぉー もう、旅箪笥に至っては__あははっ、横田さんなんて頭抱え込んじゃってね。あんまり真剣に頭抱えてるから、てっきり頭痛かと思って、こりゃ大変!救急車だと思って立ち上がったら___ははっ、大目玉くらちゃった」
「もしかして、一昨日の朝でございますか?」
高速でつくしが頷けば
「午後はずっと思い出し笑いなさってましたよ」
「えぇ、呆れてたってこと?」
「いいえ。とても楽しそうに笑っていらしゃってましたから」
「本当? 総ちゃん__あっ、若宗匠の奥さんがこんなんじゃ__ダメって感じじゃない?」
必死な顔で聞くつくしに七瀬は微笑みながら
「全くもってダメではございません。なによりもつくし様の淹れて下さるお茶は優しいお味でございますし。若宗匠のお手前がつくし様がいらしゃってから本当に滋味深いものとなっております」
「総ちゃんの淹れるお茶が?総ちゃんの淹れてくれるお茶は最初の最初から特上のお味よ。いつでも優しくて甘くて蕩けそうよ」
「あらあら、ご馳走様でございます。若宗匠は最初からつくし様が大切で大切で仕方なかったのでございますね」
「えっ?」
つくしの顔がポッと赤らめば、皆の顔に笑いの花が咲く。
「では、気を取り直して若宗匠のために気張って来て下さいまし」
「はいっ。いつも元気付けて下さってありがとうございます」
ペコリと頭を下げて、パタパタと去って行く。
西門の邸の中に温かな風が吹く。
隣りの部屋でそっと聞き耳を立てていた総二郎の顔にも笑みが広がっていく。
重圧も柵もあれもコレも強い西門家。市井の中で育ってきたつくしにとって窮屈で窮屈で仕方ないのではないかと総二郎は、心配で心配でたまらないのだ。
本来ならば総二郎が大学を卒業してからと周りの者は考えていた。
だが……それが出来なかった理由がある。
ホラホラッ、やって来た
「おーい、総二郎」
「総二郎——」
あきら、司、類の三人がつくし目当てで遊びに来るのだ。
総二郎の家は、敷居が高いとばかりに今迄寄り付きもしなかった筈なのに……
「若宗匠、道明寺様達がいらしゃってますが……」
「つくしは、横田が稽古つけてるよな?」
「はい。それはもうバッチリでございます」
七瀬が含みのある笑いを浮かべながら返事をする。
なるべくつくしと他の3人の接点を持たせない様に、この時間横田に稽古を付けて貰っている。
つくし以外の皆がよく知っていることなので__横田が都合が付かない時は家元夫人が稽古を付けたり外に出掛けたりと予定を入れているのだ。
ズカズカと3人が上がってきて__周りを見回して
「牧野は?」
「つくしは?」
「あれっ?今日もいないの?」
案の定、つくしの所在を確認する。
「牧野じゃない西門だ。人の女房、呼び捨てにすんな。今日もいないって__毎日毎日来んじゃねぇよ」
「総二郎の……ケチ」
「ケチって、ケチじゃねぇよ」
「まぁ、いいや 夕飯ご馳走になってくから」
「あぁ、よろしく」
「宜しくじゃねぇよ。毎日、毎日飽きもせず来てんじゃねぇよ。とっとと自分の家に帰れ」
「まぁ、いいじゃん」
「類、寝るな」
「司、勝手に弄るな」
「あきら、二人連れて帰れ」
やいのやいのと時間が過ぎていく。
廊下をパタパタと駆けてくる音がしてパタンっとドアが開く。
「総ちゃーんお稽古終わったよ。あっ、皆さんもいらっしゃってたんですね。いつも仲良しさんですね」
つくしが笑えば、4人の顔が脂下がる。
「おっ、牧野」
「やだぁ、牧野じゃないですよ西門です」
つくしの返事に総二郎の顔が得意気に笑う。
「もう一回牧野になればいいじゃん」
「なりませんっ。西門つくしがいいです」
益々、総二郎の顔が脂下がる。
「ったく、しまらねぇ顔してるよな」
「あぁ、平成のドンファンとか言って偉そうにしてたのにな」
「ホント、ホント」
つくしがキョトンとしながら
「平成の…ドン…ファン?」
「あぁ、それはね…」
あきらがつくしに説明しようとした瞬間
「お前等、出禁にすんぞ」
総二郎が青筋を立てればつくしが可笑しそうに
「女タラシってことでしょ? うふふっ、それくらいあたしも知ってますよ~だ」
イタズラ気に笑う。
「つ、つ、つくし、今は違うからな」
「さぁ、どうだか…なっ?」
つくしが茶目っ気いっぱいに答えれば、総二郎以外の3人は可笑しそうに笑っている。
和やかに穏やかに時は過ぎていく。
幸せに溢れる西門邸__2人きりでつくしとしっぽり過ごしたいなんていう願い虚しく、きっと明日も皆が来るだろう。
愛しき みなの憧れ おさな妻
ずっとずっとお幸せに♪
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