baroque 50
pardon
愛する事を
pardon
赦して欲しいと
pardon
僕は願う
「もう……止め…て」
つくしの顔が涙で歪む。
「__なんで、つくしがそんな事言えるの?」
薫がつくしの顔を覗き込み
「僕、一人が悪者?」
「薫、もうそこまでになさい」
亜矢がピシャリと嗜めれば、
「そうですね。なんでも引き際が肝心ですものね」
薫はフワリと微笑みながら、踵を返して部屋を出て行く。
バタンッ
扉が閉まる音がする。
亜矢がつくしの肩を抱き寄せて
「薫と何があったか解らないれど__つくしちゃんも少し落ち着いて頂戴。婚約の事は、もう少し落ち着いてから考えましょう。薫がなんと言おうがどうしてもつくしちゃんがどうしても嫌なら無理強いはしないわ。約束するわ」
「…………」
「急がなくていいからゆっくり考えていきましょう。ねっ。取りあえずつくしちゃんが学校を卒業するまでは、これ以上勝手にお話を進める事はしないから安心して頂戴」
亜矢の言葉につくしがコクンと頷く。
魔風は吹き荒れて木々を揺らす。
「一雨来そうね。雨が降る前に戻りましょう」
*-*-*-*-*
薫は、つくしと会わずに新しい年を迎えた。
つくしが京都にきてから8年間__つくしの誕生日から年が明けるまでいつも一緒に過ごしてきた。
何を見ても何を聞いてもつくしを思い出す。胸が締め付けられる様に痛い。
その度に、何故見て見ぬ振りが出来なかったのだろうかと__結果的につくしは、自分を選ぶしかないののだから、独身時代の思い出に恋が一つや二つあっても良かったじゃないかと。幾度も後悔をした。
自分を裏切ったつくしが憎くて憎くて堪らないのに、気が付けばつくしの面影ばかりを思い浮かべているのだ。
薫の部屋の扉がノックされ、宝珠の執事が薫に声を掛ける。
「薫様、藍田様がお見えになられておりますが、どちらにお通し致しましょうか?」
「……こちらにお通しして」
程なくしてインディゴちゃんが部屋に通される。
事務的な話しを終えた後
コーヒーを口にしながらインディゴちゃんが話しを切り出した。
「薫は、つくしとこのあとどうすると?」
「どうするって?どう言う事?」
薫は、インディゴちゃんの問いかけに眉根を寄せて答える。
「つくしを赦せるか赦せないかを聞いてると」
「あぁ……今回のこと?赦すしかないとは思ってる」
「だったら、一時の気の迷いだと見てみぬふりは出来んかったん?」
「つくしが、相手の男を庇わなければ__見てみぬふりつするつもりだったよ__なのにね、相手の男を守るために僕との全てを否定したんだ。自由にしてくれと声高々にあげてね。……それがどうしても赦せなかったんだ」
薫の瞳が哀し気に揺れる。
「結果、つくしを追い詰めることになったのは、後悔してる」
「なら、一度手放す事は出来んと?」
「ワタルさん、それ正気で言ってる? だったら、それ僕に息するなって言うのと一緒だよ」
「……薫」
「自分でも可笑しなことだとは思うんだ。でも__どうしようもないんだよ。手を放してつくしが二度と僕のもとに帰って来ないかもしれないと考えただけで、不安で不安でしょうがないんだ」
カタカタと薫のコーヒーカップが揺れる。
「本当は、僕がつくしを赦すんじゃなくて、つくしが僕を赦してくれるかどうなのかもしれないね」
カタカタとカタカタと音を出してコーヒーカップが揺れている。


ありがとうございます♪
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