イノセント 57 司つく
「ハァッー」
つくしは、無意識に爪を噛みながら目の前のスマホを見つめる。
自分がいま持っているスマホが一つだけならば、間違いなく連絡など取っていないのだけれど、幸か不幸かつくしの手元には、滋から無理矢理手渡されたスマホがもう一台あったのだ。元来生真面目な性格のつくしは、咄嗟にでた言葉とは言え__雅哉にまた嘘を吐く形になるのが心苦しくてたまらない。
「ハァッー」
テーブルの上に置かれた花を弄りながら何度目か解らない溜め息をついた。
「うんっ」
かけ声を一つ掛けてつくしは、目の前のスマホをタップした。RR……2コール目で雅哉が電話をとる。
『つくしちゃんっ』
ゴクンッ 言葉を出す前にカラカラに渇いた喉を潤すかのように唾を呑み込んだ。
『…あ、あ、あの…..』
『つくしちゃんもココのホテルに泊まってるんだよね?バカンス?仕事?今一人?どこに居るの?これからすぐ会える?』
矢継ぎ早に言葉を投げかけられて……
『ま、雅哉さん、ちょっと待って』
『……俺、あの日ずっと待ってたんだ。その後も道明寺HDに何度も通ったんだよ』
『…..ごめんなさい』
『責めてる訳じゃないんだ__ただ、何があったのか教えて欲しいんだ』
何があったのか教えて欲しいと雅哉に言われ__到底話せる訳などない日々のことが頭の中を駆け巡っていく。
『…………』
黙り込むつくしに
『答えてくれないんだね…….つくしちゃん、いま道明寺社長と一緒に住んでるんだよね? お金に寝返って道明寺社長の愛人になったって専らの評判だもんね』
『えっ?』
『セルペンティの時計、良く似合ってたものね。でもそんな贅沢ももう直き終わりだよね?……道明寺社長、今日お見合いだよね』
つくしは、ゴクンッと唾を呑み込む。
『それっ…て…どう言う事?』
『あれっ、つくしちゃん知らないんだ』
クスリと雅哉の笑う声が聞こえたあと……
『じきに全部わかることだと思うよ。じゃぁねっ』
じゃぁねの言葉のあとに、無声の世界が広がっていく。
つくしの喉から渇いた笑いが出る。
「ははっ、ははっ…ははっ…っ…うっ…っう」
渇いた笑いは、いつしか嗚咽に変わって行く。心が苦しくて__痛くてたまらない。
「だから、だ…ら、嫌だった。…から、だか…会いたくなんて…会い…くな…て…なかっ…の…に…ぅっうっ、ぅうぅっ」
つくしは自分の心を思い知る。
憎んでいた筈なのに、
道明寺じゃない司など愛していないと思っていた筈なのに
似ているから求めているだけだと思っていたのに__
今の司を愛し始めていた自分の心を思い知る。
「ふっふっふ ハハッ、ハッ…はっ…ハハッ…イヤッ、イヤッ、嫌ぁ__違う__違う__違う」
首を振り続けながら涙を流す。
つくしの心の最後の砦が壊れた瞬間だ。
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