イノセント 58 司つく
パリン
パリンッ
パリンッ
つくしの中で何かが…壊れていく音がする。
パリン
パリンッ
パリンッ
司を愛していると気が付いて___惨めさがつくしをジワジワと包み込んでいく。
同じ男を2度失う惨めさにつくしは戦く。どれだけ酷い事を言われようとされようとしっかりと立っていられたのは、愛していないと思っていたから。
叶わない愛は……惨めだ。
嫌というほどつくしは、知っている。
「フフッ、ハハッ、うっ…ぅっ…もう…思い出にも逃げられれないの?」
逃げて
逃げて
逃げて来た。
道明寺を失った自分から逃げて来た。その反面、道明寺の思い出に支えられていた。
頭で思い出す事は哀しくて出来なかったけれど、つくしの心に道明寺は片時も離れずいつも居た。
愛する男の思い出は、つくしにとって真っ暗闇に咲き誇る花だった。綺麗に咲く花は、とても便利だった。
記憶を失ったのだから仕方ない。そう思って自分自身を悲劇のヒロインに仕立て上げ不幸に酔いしれながら愛でれば良かったから。
記憶を失った直後の司を思い出す。冷たく射るような瞳だった。【あたしを愛する】自分に言い聞かせ奮い立たせ会いにいった。いつまでも思い出しもせず、自分以外に向けられた優しい瞳に、笑顔に傷ついた。
この人は、違う人。道明寺司だけど、道明寺じゃない。自分が愛された思い出を優先させた。
「っすん、っすん…….たし……まち…って…の…かなぁ…」
道明寺の記憶からすっぽりとつくしは消され不要のものとなった。記憶等なくてもあいつは自分を愛する筈だとつくしは自惚れていた。
でも……愛されなかった。
悔しかった
情けなかった
惨めだった
この恋は絶対のものだと信じていたから。
だから___切り捨てた。
だから___逃げた。
「….ぅうっ…本当は…本当は…嬉しかったの」
司が見せる執着が。時折見せる優しさが。
「でも…でも…やっぱり、あたしはオモチャだったん…だね」
鼻を啜り上げ、嗚咽をもらしつくしは、泣き続ける。沢山、沢山、沢山泣いても涙は止まらない。止まらないどころか後から後から涙が溢れ出して行く。
パリン
パリンッ
パリン
痛い。
痛い。
痛いと心が悲鳴を上げている。
逃げる言い訳が……なく…なった。
真っ正面から自分自身と向き合わなければいけなくなった。
「いやぁーーーーーぁぁっ」
つくしの口から悲痛な叫び声が漏れた。
恋は、愛は、幸せだけじゃない。
それなのに…..ほんの少しだけ残った幸せさえも、掌からサラサラと零れていく。
サラサラッ
サラサラッ
音を立て零れていく。
零れた幸せが立てる音は、どんな音なんだろう?
零れた幸せが出す色は、どんな色なんだろう?
夕陽が沈んでいく。
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